海外との貿易でたった一代で財を築いた父は、英国の貴族からは成金と呼ばれていた。
しかし、その財力はこの国の中でも1、2を争うほどだった。
母は美しく色白で、肌の色が黒いアサドは別の母から生まれたのに自分の子供と分け隔てなく育てられていた。アサドはそんな優しい母が大好きだった。
アサドの本当の母親はアサドを生んですぐに死んでしまった。
他に兄弟が弟と妹がいた。ふたりとも今の母親の本当の子だった。
それでもみんな優しいし、ここでの生活はとても幸せだった。
この日のアサドは学校が予定よりも早く終わり、父のことを書いた作文が学校で賞を取ったことを報告したくて走って帰ってきた。
家の中を走り回って、ようやく庭でお茶を飲んでいた母と弟と妹を見付けて駆け寄ろうとした時、弟が母に
「ねぇ、お母様どうしてお兄様だけ肌の色が黒いの?」
と尋ねた。アサドがクスッと笑って一歩踏み出した時、母の顔色が明らかに変わった。
「あまりお兄様に近づいてはいけませんよ。お兄様は汚れているからあんなに汚い色なんです。肌だけじゃなくてその髪も瞳も汚らしい色をしているでしょう・・・あ、でもお兄様の前では内緒にしなくてはいけませんよ」
アサドの足下に褒めてもらおうと、持ってきた賞状が落ちた。
「えっ・・・」
母と弟と妹の笑い声が遠くに聞こえてくる。
そのままその場を走り去って、家を出た。
町の中にはアサドの一家のことを知らない人などいなかった。
アサドがどこへ行っても誰かが声をかけてくる。
挙げ句の果てにアサドは親切な男に家へ送られてきた。
一見親切そうなその男でも一歩、この家を出るとニヤリと笑った。
金持ちのアサドの家へ貸しを作ることはいずれなんらかの見返りがあるだろう。という打算があってのことだろう。
アサドはこの日から段々と周りの人間の心が、今まで自分の考えていたものとは違っていることに気づきはじめた。
そして家族とも顔を合わせることが少なくなった。
ハイスクールに入る時期になると全寮制の学校へ行かされた。
アサドは母や弟、妹と顔を会わせなくて済むことにホッとした。
そしてとにかく勉強をしてハイスクールから大学へと進んだ。
卒業した頃には父の後継者として弟が父と行動を共にしていた。
とうとうアサドの帰る場所はなくなっていた。
そんな時マラークの父であるブルザード公国の王であるガーリブ王からアサドの父へどこかに息子のマラークの教育係はいないか、という依頼が入った。
アサドの母は元々ブリザード公国の貴族だったという繋がりがあった。
最もアサドがそれを知ったのはブルザード公国へ教育係として渡ってからのことだったが・・・
こうしてアサドは英国の家を後にしてまだ幼いマラークの世話係兼教育係となった。
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新章に入りました。アサドの過去です。
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