田舎で周りには家も殆ど建っていないような場所なのに突然広い敷地に建物がいくつか建ち並んでいた。
支社兼研究所兼工場らしい。
寮やホテルリクレーション施設を併設しておりここだけでリゾート都市のようになっていた。
「ここが支社なのか?」
光長は正面の大きなガラス張りのビルを見上げた。
タクシーの支払いを済ませた雅秀は降りると先になって正面の階段を登り始めた。
階段を上ると正面入り口の自動ドアが見えた。
自動ドアを抜けると受付に向かって真っ直ぐに歩いていった。
「本社の森本です。こっちは風間」
「お待ちしておりました。こちらをどうぞ」
受付カウンターに肩肘をついてウインクする雅秀に受付嬢はうっすらと頬を染めながらカードになっている名札を2枚手渡した。
「サンキュ、山本さん」
雅秀に名前を呼ばれて受付嬢は更に赤くなった。瞳をそらすようにしながらお辞儀をする。
「ごゆっくりどうぞ」
光長はそんな雅秀の様子を隣で見つめて呆れている。
この男は誰でも良いのだろうか?まぁ確かにこの受付嬢はランクで言うと中の上ランクといえそうだが・・・
光長の目の前でわざとらしく雅秀は差し出されて手を掴んだ。
彼女の視線が雅秀を捕らえた。雅秀の唇が吸い込まれるように彼女の頬に触れた。
光長は何故かすごくばからしくなって名札を奪うようにして取ると中に向かって歩き出した。
「おい、待て」
雅秀の声が聞こえたが、無視してビルの中に向かって進んでいく。
これ以上あんな場面を見せられるのはたまらない。
ずかずかと歩き出すと何かにぶつかった。
「おっと失礼」
ぶつかってふらつく体を白衣の袖が支えてくれた。
「あ、こっちこそ申し訳ありません」
光長が顔を上げると白衣を着たボサボサの長髪を無造作に後ろだ束ねた男が光長の顔を見下ろしていた。
キラキラとした瞳は少年のように希望に満ちあふれている。
「本社の人?」
「はい、一応」
「ラッキーだな、今いらしたんですか?」
「はい・・」
彼は光長の体を支えたまま嬉しそうに尋ねている。
「光長、何している?」
雅秀が追いついて、男が光長の体を支えているのを見ると眉間に皺を寄せた。
「すみません、俺・・いや私はここの研究部長をしている沖田翔太と申します。」
光長の体から手を離して男は雅秀と光長に向かってぺこりと頭を下げた。
「沖田か」
雅秀は光長を見ていた。
<「弦月」支社にて2へ続く>
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