流石高級車、乗り心地が違って走行中の揺れが殆どない。
萩之介は前を見て運転しているが、たまにバックミラーの視線が光長を見ている。
「もう体は痛くない?」
月余は光長の腰をチラッと見た。
「はい、あまり酷くならなかったようで・・・お世話になってしまってありがとうございました」
そう言ってしまってからしまったと思いバックミラーを見ると丁度カーブだったので萩之介はフロントに集中していた。
光長は心の中でホッとする。
「それなら良かった。膿んだりしたら病院に行かないといけなくなるからね」
「それは避けたいですね」
光長は苦笑する。
「それで君は相手の顔は覚えているの?」
その言葉に光長は曖昧に答える。
まさかそれが同じ会社の直接の先輩だとはやはり言い出せない。
もしもそんなことを言ってしまえば、面倒見の良い月余は絶対に
『そんな会社はやめて仕事は私が世話をするよ』とか何とか言い出して、また萩之介に睨まれてしまいそうだ。
運転席に座っている彼は一部始終会話に聞き耳を立てている様子だ。
「じゃあ、告訴してみる」
「それは嫌です。女じゃないしみっともないです」
「ふうん」
月余はそのまましばらく黙り込んだ。
(何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか・・・)
ところが月余の手が光長の手を握ってきた。
光長は驚いてまたバックミラーを見ると幸い萩之介は運転に集中している。
「あの・・・」
ところが月余は口元にシッと指を置いて光長の指の間に自分の指を絡ませる。
それだけなのになぜか光長はとても淫らな行為に思えてきて、顔が熱くなってきた。
「萩之介、悪いけどあの店でアイスコーヒーを2つ買ってきてくれないか?君も飲むなら3つでもいいよ」
月余が萩之介に声をかけると彼は無言で車を駐車場に入れた。
流石に上司の命令では逆らえないらしい。
「少し混んでるようなので20分くらいかかると思いますが、それでもいいですか?」
無愛想にミラー越しにそう言うと月余は笑顔で
「もちろんかまわないよ」
と微笑むと萩之介は車を降りて店に向かった。
ドライブスルーなら降りなくても買えるのにそうしなかったのは、月余は萩之介を下ろしたかったようだ。
「あの子も酷い目にあった被害者なんだ」
月余は顎で萩之介の後ろ姿を示した。
<「弦月」車中にて3へ続く>
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