「最も彼の場合は未遂でね。それでもモノを使われて傷つけられていた。実際に挿れようとしたした場面で見つけたんだ。最初はショックで口もきけないくらい怯えていたよ」
その言葉を聞いていると光長も先日のことが甦り体が小刻みに震えだした。
指を絡ませた月余の手に力がこもる。
「悪かったね。君ももう、忘れてしまった方が良いんだよね。だが一度味わってしまった感触でトラウマができたら遠慮なく私に相談するといい」
月余の言いたいことがよくわからなかった。
だが今こうしていてもらえるだけでどんなに感謝していることかわからない。
光長は月余の手に唇を寄せてキスをした。
すると月余は瞳を細めてその顎を掴んだ。
「少しならかまわないかな」
端正に整った顔が目の前に近づいてくる。
同時に唇に柔らかいものが触れた。
それが月余の口づけなのだと気づいて光長はまた赤くなった。
それは光長の唇に軽く吸い付いた挨拶のような口づけだった。
少しだけ気まずくて光長は目を泳がせながら窓の外を見る。
だがまだ萩之介が戻ってくる気配はなかった。
「君の反応はいちいち新鮮だからついちょっかいが出したくなるなぁ。私が見張っていないとまた襲われそうだな」
「そんなことは・・・」
そう言いかけてふと会社のエレベーターでのことを思い出した。
確かに光長はいつだって危険と隣り合わせの環境にいる。
相手だって誰だかはっきりわかる。そこでふと夢のことを思い出した。
自分は雅秀のあんな夢を見たなんて信じられない。
夢の中でまで酷い目にあわされていたのはそれだけ怖かったということなのだろうか。
「どうした?私が怖い?」
月余が心配そうな瞳で光長を覗き込んできた。
「いつだって私は君の力になるよ。ああ、これは変な下心がある訳じゃないから。でも君がもしもその気なら私は喜んで相手するよ。もちろん萩之介が一番だけどね」
さらっとそんなことを言えるこの人はすごいと思った。
程なく萩之介は紙袋をぶら下げて戻ってきた。
後部座席の月余に意味深な視線でそれを手渡すと、月余はわざとその手を一瞬強く握った。
それだけで萩之介の機嫌が直ったように見えた。
<「弦月」車中にて4へ続く>
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