「梨の花なんて匂いもなければそれほどきれいでもない。きっと僕はそれなりということなんだね」
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[2回]
まだここに来たばかりでやっと源氏名をもらった花梨(かりん)はそう言って少し口を尖らせた。
ここにいる若衆は皆それぞれイメージにあった名をつけられた。
花梨は自分の名前が梨の花なのが不満らしい。
花梨に向かい合って座っているのはこの店の経営者の芳生(ほうせう)だった。
実際に店を切り盛りしているのは雇われ主人で以前はここで傾城をしていた経験者だ。
源氏名は大抵芳生がつけている。
経営者と言ってもまだ若く彼は大店の2代目、いうなれば若旦那といったところだろうか。
大店の若旦那というと馬鹿旦那が多いこの時代には珍しくしっかりして落ち着いている感じのいい男だった。
花梨は芳生が優しいのをいいことに何かにつけて不満をぶつけていた。
まるで子供がだだをこねるようにふくれっ面をしている。
「遠く唐では梨の花し真ん中がほんのりと色づいた美しい花だといわれているんだ。お前も一見派手ではなくとも味わいのある美しさがあるという意味なのだよ」
とうっすらと微笑む姿はその辺の女ならば放ってはおかないだろう。
しかし花梨は違った。
「芳生さんは僕が嫌いなんですね」
「なぜそんな解釈になる?」
芳生が少し困ったように花梨を見つめた。
「だって唐だなんて、誰も知りませんよ。もういいです。僕は誰とも床をとりません」
「困った奴だ」
芳生はため息混じりに花梨の側に近づいた。
花梨は頬を膨らましたままだ。
「ふん」
花梨はそのままそっぽを向いた。
経営者に対する態度とは思えないが、それも芳生が若いのと優しいからわがままを言うのだろう。
芳生は花梨の手首を掴んだ。
「何ですか?まだ何か用ですか?」
もういいたいことは伝えたので自分の部屋に帰ろうかと思っていた花梨は芳生が掴んだことに少しだけ驚いた。
「私はお前が可愛いと思うのだ。それがわからぬようなら体にわからせてやるまでだ。どうせお前はまだ誰とも交わったことはないのだろう。私が男の味を教えてあげよう」
「えっ?!悪い冗談を」
花梨はまさか芳生のような穏やかな善人で女にももてる男が若衆など相手にするとは思っていないので、笑っていた。
しかし芳生の瞳が冷たく光るのを見て体を震わせた。
<「梨の花」2へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れ様でした。
web拍手をありがとうございました。
これは「蜜月」の番外編です。
PR