13歳になったマラークは時々窓を見つめてはため息をついた。
「アサド、町へ行きたい」
アサドは呆れながら勉強していた教材の本を見つめた。
「このテストで満点をとったら考えてあげます」
と眼鏡のフレームを持ち上げた。
アサドは普段は眼鏡をかけていないが、勉強を教えているときだけは眼鏡をかけていた。
マラークはクスクスと笑い出す。
アサドは眼鏡の奥の瞳をマラークに向けた。
「どうしました?」
「だって・・・アサドったら、それなくたって見えるでしょ」
マラークは勉強が嫌になると、いつだってそうやってアサドの眼鏡のことを話題にする。
「全く・・・」
こうなると勉強に身が入らなくなることは、いつも勉強を教えていたからアサドはよく知っている。
アサドは眼鏡を外すと窓の下を見た。
「少しだけですよ」
「やったぁ!」
マラークにとっていつも見慣れた城の従者など見飽きていたので、町に出て自分と同じ世代の若者と会うのが楽しみだった。
アサドだってこの世代には学校へ通っていた。まぁ、自暴自棄になっていてこともあるのであまり好んで友達と遊んだりはしなかったが・・・
「ねぇ、今日は行きたいところがあるんだ」
マラークは大きな青い瞳をキラキラさせながら真っ直ぐにアサドを見つめてくる。
アサドもマラークにそんな風に言われると王同様甘くなってしまう。
「仕方ありませんね。で、どこですか?」
部屋を出で長い階段を下りながらアサドはマラークに尋ねた。
「うん、歌を聴かせるクラブがあって、そこですごく歌がうまい青年がいるって聞いたんだ」
「一体誰がそんなことを・・・」
アサドは俯いて首を左右に振った。
だが、マラークは上を向くと階段の窓から差し込んでくる太陽の光を独り占めしていた。
「みんな言ってるよ。アサドは聞いたことがないの?じゃあ丁度良いじゃない。一緒に見てみよう」
マラークはとても嬉しそうに微笑んだ。
アサドは何も言わずにマラークの背中にコートを羽織らせてフードを被らせる。
「いいですか、どんなに感動してもお顔はなるべく隠してください。あなた様は目立ちすぎます」
「うん、大丈夫だよ。アサドありがとう」
素直にそう言われてアサドの頬が気持ち赤くなった。
クラブに到着するとまず、アサドが先に店の中を確認した。
特に怪しい奴はいないようだった。
マラークを呼び入れる。
店の中はまだ歌の時間ではないらしく、ガヤガヤと賑わっていた。
しばらくするとステージにアサドより少し若い青年が立って、マイクのチェックをしている。
そして照明が暗くなるとアサドは一層マラークの周りを警戒した。
突然青年が歌い出すとアサドは動きを止めた。
マラークも同じようにキラキラと瞳でステージを見つめていた。
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