「大夫言葉がしゃべれるようになったね。ナジムは頭が良いよ」
とナジムの頭をなでた。
カミールは目を細めてその様子を見つめていた。
ふたりの会話に違和感が感じられない程度までになっていた。
「そうだ、おもしろいことを思いつきました」
しばらくしてカミールが突然言い出した。
「なに?」
「何ですか?」
ふたりの美しい少年達は瞳を輝かせている。
マラークはナジムと話をするようになってから、一層外の世界への憧れを強く抱くようになっていた。
「ここでお二人が入れ替わって明日一日誰にも気づかれずに過ごすというのはいかがでしょうか?」
その言葉にマラークの好奇心はそそられた。
マラークがナジムの顔を見ると、ナジムは「でも・・・」と何か言いたげだった。
「アサドにはバレるかもね。でもバレなかったらすごいよ」
少しだけ興奮したマラークの姿はまた美しかった。
戸惑うもうひとりの少年もそれはそれで美しい。
どうしてこのふたりがここまで似ているのかということをカミールは不思議に思う。
「それじゃあ早速衣装を取り替えましょう」
ふたりは衣装を取り替えて、マラークには薄化粧をした。
ナジムは逆に化粧をとった。
全ての支度が入れ替わったところで、マラークが部屋に帰る時間が来た。
「さぁ、マラーク様お部屋に」
というカミールに女装をしたマラークが立ち上がると、カミールはそれを制した。
「違うでしょう。マラーク様はあなたですよ」
その言葉にナジムが戸惑った。
「あ、そうだった。だめだよナジム。そんなにおどおどしてたら、すぐにアサドにバレちゃうよ。それじゃなくてもアサドは賢いんだからね」
マラークがニコニコと笑った。
「でも・・・」
ナジムは不安がるがそのまま部屋を放り出されてしまった。
仕方なくとぼとぼと教えられた部屋を目指して歩き出した。
ナジムが部屋に戻ると、幸いアサドは気づいていないのか、声をかけてこなかった。
ホッとしたナジムはそのままベッドに入って横になる。
一方、アサドはこの頃、冷たいシャワーを浴びながらさっき見てしまった美しい姫のことを忘れようと必死だった。
(マラーク様には出だしするわけには行かない。だが、それが女で、マラーク様ではないのであれば手を出してもいいはずだ・・・いや、あれはマラーク様のお気に入りなのだ。自分のような浅ましいものが触れてはいけない)
さっき見たばかりの美しい笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
その思いを今はマラークに悟られてはいけないと、懸命に熱を冷ましている最中だった。
「おはようございます。お着替えをお持ちしました」
翌朝、ナジムはアサドの声で目覚めた。
いつも起こしてくれるカミールの声ではないことに、不思議そうに瞼を開けてハッとした。
(そうだ、昨日僕はマラークと入れ替わったんだった)
目の前で無愛想なアサドが着替えを手に急かす。
「早く起きてください」
体を起こしたナジムをアサドはじっと見つめた。
「さあ、立ち上がってそっちに行って、全部脱いでください」
ナジムはベッドから立ち上がるとアサドの言う通り窓の前に立った。
(こんなところで着替えるのか・・・)
と躊躇っていると急にアサドの声が冷たく追い立てた。
「早く!」
ビクンと体を震わせると、ナジムは着ているねまきを脱いで下着姿になった。
「何をしてるのですか?いつもそれも全部脱いでるじゃないですか」
アサドの静かな声におずおずと下着も脱いでいき、裸になると手で前を隠した。
「今日のマラーク様は何をそんなに恥ずかしがられてるのか・・・」
ゆっくりとアサドが近づいてきた。
窓の横に置かれていた椅子を引き寄せると、その上に裸のままのナジムを座らせた。
「あの・・」
ナジムは困惑したようにアサドの顔を見上げると、冷たい視線が向けられた。
「相変わらず、なめらかな美しい肌です」
アサドはナジムの両足を椅子の脚に縛り付けていく。
「ちょっ・・・これ・・アサド?」
ナジムがアサドに気づかれたと思ったときには両手も椅子の後ろで拘束されていた。
「これはまたマラーク様、なんというあられのないお姿でしょう」
アサドは口元を上げて笑った。
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