「酷い目にあわされたの?でも王様はナジムを愛してくれるから、ナジムが逆らわなければきっと痛いことはしないと思う・・・」
マラークは自分と同じ顔の少年の頭を撫でてやると、彼は安心したのかマラークの腕の中で眠りはじめた。
マラークはその唇になぜか自らの唇を重ねた。
すると不思議なことに、ナジムがあわされた酷いことが走馬燈のようにマラークの頭の中を巡る。
王の見たこともないような欲望まみれの顔に再びゾッとした。
ハッとしてナジムから唇を離して彼の顔を見下ろすと、涙を流しながらその頬に顔を寄せた。
「可愛そうなナジム・・・毎晩僕が来てあげるからね」
マラークはそう言うとスッとベッドから立ち上がった。
そろそろアサドが戻ってきてしまう。
アサドが戻ってきたときにマラークがいないとわかれば、もうマラークを残して部屋を出て行かないだろう。
「ごめん、ナジムまた来るよ」
マラークは教えられていた英語を話すとナジムは理解したのかその瞳を輝かせた。
「君は言葉が話せるんだね」
と英語で話した。
マラークは苦笑しながら
「ほんのちょっとだけだけど・・・そうだ明日からナジムに言葉を教えてあげよう」
そう言うと背を向けて入ってきた窓から出ていった。
翌朝、目覚めたマラークの横でアサドが怖い顔で立っていた。
「おはようアサド」
マラークは気がつかないふりをして挨拶をするがその挨拶さえも冷たい声で返された。
「おはようございます・・・それで昨晩はどちらに夜這いされたのですか?」
「そんなんじゃないよ!」
思わず大きな声を出してしまってから、まんまとアサドの作戦に乗ってしまったことに後悔した。
「それじゃあどちらへ行かれたんですか?私を欺いてまで」
不本意そうな顔はマラークを心配してのことなのだろう。
アサドはマラークにとても甘いのだ。
マラークはそれを知っていて利用する。
アサドの首に両腕を回すとその目を覗き込んだ。
「ちょっとだけ外に出たかったんだ。ごめんなさい。でもねたまには私もひとりで考え事とかしてみたいんだよ」
アサドは間近で澄んだ海のような色の瞳に見つめられてカッと赤くなるがきっぱりと
「それならそうとはじめから言ってくだされば、私も話がわからない男じゃありませんよ」
と言った。
「とにかく、お一人で出歩くことは危険ですのでご注意ください。できれば私がおともしたいのですが、あなた様は強情ですからね。禁じれば逆に強行手段に出られるでしょう。それは最も危険なことなのでしばらくは黙認しましょう」
「本当?アサド!!ありがとう」
マラークがアサドに飛びついてきた。
アサドは苦笑しながらいつまでも子供のようにはしゃいでいるマラークの頬に触れた。
「いいですか、無理したらダメですからね」
マラークはコクリと頷いてアサドの頬に口づけた。
アサドは目を見開いて驚いたが、それはほんの一瞬のことで、マラークは全く気がつかなかった。
その晩からマラークは毎晩決まった時間に1時間だけ部屋を出て行くことを許された。
だがアサドはマラークに好きな相手ができたのだと思い、心情穏やかではいられなかった。
そんな気持ちは絶対に誰にも気づかれてはならないのだと、自分に言い聞かせながら、ひたすらマラークが戻ってくるのを待っていた。
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