「痛むか・・・」
雅秀が光長の動く気配に目覚めたのか声をかけてきた。
「・・・・」
光長はそれには答えずに体に掛けられていた着物に袖を通した。
「真珠はお前にやるから」
バーンッ!
小気味のいい音が明け方の清々しい浜辺に響き渡った。
同時に雅秀は頬を押さえている。
「何だまだそれだけ元気なら歩けるな。今日はお前を背負って街道を歩かなきゃならねぇかと思ったが助かったぜ」
雅秀はそう言って笑った。
大の男が背負われるなど冗談にも程がある。
光長は重く痛む腰を押さえつつ立ち上がった。
「おい、朝日ぐらいゆっくり見たらどうだ。それにもう少し休まねえと本当に背負う羽目になりかねねぇ」
雅秀は光長の手を引っ張る。
光長はバランスを崩して雅秀の体の上に倒れ込んだ。
雅秀は光長を押さえたまま朝日を見つめている。
光長は朝日を浴びた端正な顔つきを目の前に見つめた。
「ん?」
それに気づいた雅秀が光長の瞳をのぞき込んだ。
「あ、そうだ今夜の宿はいいところがあるぜ」
雅秀が口元を上げて笑った。
光長は一瞬でも雅秀の顔を美しいと眺めた自分にバカだと思った。
どうせまたろくでもないことを考えいてるに違いない。
日が高く昇る前に出発はしたものの
光長はやはり速く歩くことはきつかった。
あまり進んではいないが雅秀は見かねてもう今日は宿を取ろうと
早めに言い出した。
「それはすまない」と光長が言うと
雅秀は「予定通りだから気にするな」と笑った。
そんな予定を立てていることに光長はゾッとした。
ではこれから先ずっと光長に酷いことをするつもりなのか?
今更気づく方が鈍すぎるのかも知れないが・・・
とりあえず雅秀が手配していたところへ足を運んだ。
「休み茶屋?」
雅秀が光長を連れてきたのは茶屋だった。
何の飾りもないことから出会い茶屋でもなさそうだ。だがそこで床をとれるのであれば
休み茶屋だろうと光長は思った。
店の中にはいると金持ちそうな大店の旦那らしき者と若い男、旗本らしい若武者と若い男などとすれ違った。
なぜか男が目立って見えたが、膳を運んでいるのは女中みたいだった。
「こちらにどうぞ」
案内したのはまだ10代と思われる若く可愛らしい少年だった。
着流した着物が大きな花柄で男にしては珍しく派手な格好である。
「で、お客さんもう一人呼ぶの?」
「ああ、そうか光長の相手はお前で、俺にも一人つけてくれるか?」
「いいよ、じゃあすぐ呼ぶから」
彼は両手を叩くと襖が開いてもう一人少年が現れた。
やはり年の頃は16~7だろう色白のふっくらした頬の可愛らしい少年が
先の少年よりも少しだけ上品な花柄の着物を着ていた。
「今宵はお呼び立てありがとうございます。か、可愛がってください」
頬を赤くしてやっとそう言った少年を見て、光長はここが陰間茶屋だということに初めて気づいた。
またしても雅秀にはめられたのだ。
<「蜜月」茶屋にて2へ続く>
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