羽根は朱鳥が用意してくれたサンドイッチを口に運んだ。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
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「おいしい」
ふんわりとしたパンが空腹を思い出させる。
羽根は一気に全て食べ終えると服を探しに部屋を出た。
朱鳥は気づいていても黙認するつもりであんなことを言ってくれたのだろうか。
廊下を歩きながら、そういえば朱鳥の部屋って入ったことがなかったな・・・
確か1階の階段の横にある部屋だと聞いたことがある。
羽根は階段を下りてキョロキョロしながらその横にあったドアノブを回した。
カチャッという音がしてドアを開けると羽根の部屋とは対照的で必要最低限の家具しか置かれていない質素な部屋だった。広さも羽根が与えられている部屋の半分もない。
だが、朱鳥の性格とか容姿からしてその部屋の様子は意外には感じられなかった。
物が少ない分機能的にさえ思えてくる。そのおかげで羽根はすぐに朱鳥の服がしまわれているクローゼットを見つけることが出来た。
きちんとアイロンをかけて畳んでしまわれているYシャツやハンガーに吊されてあったスーツ類。袖を通すことさえ躊躇いそうにきちんとしまわれている衣類。
羽根はそのうちのひとつを手にとって
「ちゃんときれいに洗濯して返しますから、ちょっとだけお借りします」
とシャツを広げた。きちんとのりがきいたYシャツに袖を通すと気持ちまでシャンとしてくる。これが朱鳥なのだと改めて納得した。
ハンガーに掛かっていたスーツを着ると羽根は入ってきたときよりも警戒しながら、静かにドアを開けた。
ドアから頭だけ出してキョロキョロと見回してから誰もいないことを確認するとドアを出る。
そのまま玄関から外に出ると目立つのでテラスに回った。
幸い人の気配はないので羽根はそこから庭に出た。そこから門を出ようとこっそりと様子を見ながら歩き出した。
そこに黒い良く磨かれた車が滑るように走ってきて羽根の横に止められた。
見つかってしまったのか?ここで終わりか?と思われた瞬間静かに運転席側の窓が降りた。
「ここからどうやって行かれるおつもりですか?どうぞお乗りください」
朱鳥だった。彼は服を貸してくれただけではなく、送ってくれると申し出ている。こんなこともしも雫に見つかればきっと叱られるに違いないのに・・・
羽根は首を左右に振った。
「大丈夫、これあるし・・・これ以上朱鳥に迷惑かけられないよ」と携帯電話を掲げた。
朱鳥は表情を変えずに「そうですか」と淡々と答えた。
感情が顔に出ないというのは厄介だが、羽根はそんな朱鳥のことが好きだった。
にっこり微笑むと「ありがとう」とだけ言ってまた歩き出す。朱鳥はそのまま車を走らせ去っていった。
羽根は携帯電話をかけ始めた。
「兄さん?」
「羽根?!どこにいるんだ?!どうした?心配したぞ。すぐ迎えに行ってやる」
「うん、来てくれると助かるよ」
兄の声は慌てていた。相当心配していたことが声からわかるほどだった。
電話を切ると羽根は再び出口に向かって歩き出す。それにしても広い家だ、歩いても歩いても出口まで時間がかかる。20分くらい歩いてようやく門のところに到着した。
羽根が後ろを振り返ると遙か後ろの建物は庭木にで余りよく見えない。
場所は携帯のナビで表示されていたので何とか兄を誘導できた。こんな場所なのに都心から遠く離れている訳じゃないのが救いだった。
<「恋占い」職場にて3へ続く>
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