羽根は車に乗り込むとその門を車で走っていく。
大きな車止めに車を止めると羽根は降りた。
「私はこちらでお待ちしています」
朱鳥はこれ以上は立ち入らなかった。
羽根は古風で大きな引き戸の玄関に向かって戸を開けようとすると中から戸が開けられた。
「お待ちしてました」
戸を開けたのは美波本人だった。
触れたら壊れてしまいそうな砂糖菓子のように儚げで華奢な体を男物の着物に包んで長い髪をアップにしている。それでもしっかりと男だという風格がどことなく色気を感じずにはいられなかった。
前にダーツバーで会ったときとは随分と雰囲気が違うんだな・・・
羽根はそんな美波を目の前で見て差し出される長い指に手を添えながらポッと頬を赤らめた。やべぇ、俺にも兄さんの血が流れてんのかな?
美波さんのこと勘違いしそうだ。クラクラする。
「こちらです足元気をつけてくださいね」
と羽根の手をぎゅと握ると良く磨かれた木の廊下を歩き出した。
「あの・・・俺が来るってどうして」
「ああ」美波はクスッと悪戯っぽく笑うと
「翼から電話があったんですよ」と嬉しそうだった。
俺、こんな人に本当のこと聞きだせんのかな?雫早く来ると良いなぁ~
やがて大きな広間に座卓とその回りに座椅子が4つ置かれた部屋に通された。
「こちらに座ってください」
美波は羽根を上座に案内した。自分はその向かい側に座る。
座卓の上にはお茶の支度が置かれていた。
「お茶ですもいいですか?」と美波が大きな茶碗に抹茶を入れはじめた。
流石に期待を裏切らない。美波は丁寧な仕草でお茶を茶筅で掻き回して羽根に出した。
抹茶の良い香りが部屋の中に広がっていく。
羽根は作法などわからないのでとりあえず茶碗を両手で持って一口飲んだ。
「にがっ」
その言葉に美波が笑顔になる。
「だから君は翼の一番なのですね」
その言葉に羽根は顔を上げて正面の美波を見た。
「俺は・・・兄さん、翼が一番好きな人は美波さんだって聞いてきました」
その言葉に美波は首を左右に振った。
「いいえ、僕はあなたの身代わりでしかない」
美波は自分の茶碗を手に取ると茶碗をゆっくりと回した。
「翼は強引に僕を抱きながらいつだって羽根のようだと話すんだ。君にこんな苦痛わかるかい?」
ゆっくりと厚手のやきものに薄く形のいい唇を付けてごくんと喉をならしてお茶を飲み込む姿を羽根はじっと見つめていた。
許されることならばその唇に強引に舌をねじ込んでみたいという欲望に駆られる。
それから襟元からふくさを取り出すと唇についた水分を拭った。
「キスしていいですか?」
羽根は催眠術にでもかかったようにそんなことを口走っていた。
<「恋占い」美波の部屋にて3へ続く>
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