羽根は指示された席に座る前に朱鳥にそう言うと彼は羽根を無理矢理座らせた。
「まあ、飲み物でも頼みますよ。何がいいですか?」
彼は写真付きの派手なメニューを羽根に手渡した。
羽根は手渡されたメニューも見ないで
「すぐ帰りますから」と言うと朱鳥はそんな言葉を無視をした。
「カクテルでいいですね」
と勝手にカシスソーダを注文した。
自分はアイスコーヒーを飲んでいるくせにどうして俺だけアルコールなのかという目でテーブルに置かれていたグラスを見ると
「私は車なのですみません」と謝られた。
「じゃあ俺もコーヒーで良かったのに」と言うと朱鳥はクスッと笑った。
「男2人でソフトドリンクってのも不自然じゃないですか?」
そもそもあんたが俺みたいなのとここにいること自体が不自然だと思うんだけど・・と言う言葉は口には出さなかった。
「何か歌おう」
「はい?」
この人の意図がつかめない。本気でカラオケを楽しみに来たのだろうか?
彼はテーブルの上に置かれていた歌の本を手に取った。
本気なのだろうか?確かにこんな人がカラオケを歌う姿を見てみたい。
長髪のモデルのような外見からしても彼はどう見てもこういうところとは不似合いだ。これが高級クラブできれいな女性でも侍らせていれば想像もつくところだが・・・
「私の顔に何かついている?」
あんまりまじまじと朱鳥の顔を見つめていたので彼は不審そうに顔を上げた。
「あ、いえ、こういうところ良く来られるんですか?」
羽根の問いかけに朱鳥は微笑んでいた。
「一度来てみたいと思っていたんだけど、なかなか来られなくてね。君を見てぜひ一緒に来てみたいと思ったんだよ」
この人は純粋にここに来たかっただけで、他に意味はなかったんだろうか?
羽根はまだじっと朱鳥の顔を見つめている。
すると朱鳥は羽根のあごを掴んだ。
「あんまりそんな顔で見つめられると私だって間違いを起こすかもしれませんよ。私はあの方の影でしかありませんけど、あの方がいないときくらいはハメを外しますからね」
急に真顔でそんなことを言われると、羽根はどうしていいのかわからなくなる。
つかまれた手をやんわりと掴んで外させると
「ふざけないでください。俺は男ですから」
と真っ直ぐに朱鳥を睨みつけた。
「じゃあ、歌って」
と分厚い本を手渡されて渋々知っている曲を探した。
「ああ、楽しかったね」
朱鳥は本気でそう言っているようだった。
あまりアルコールに強くない羽根は朱鳥に勧められるままに飲んでいたカクテルに少しぼんやりといい気分になっていた。
いい加減歌い疲れてそろそろ帰りたいと朱鳥に申し出たが彼はまだ帰りたくないと言って曲を入れ続けていた。
羽根はゆったりとしたソファーに体を投げ出していると朱鳥が羽根の体を自分の腕の中にすっぽりと抱き込んできた。
いい仕立てのスーツに微かなコロンがいい香りで羽根は酔ったのもあり眠くなってきてしまった。
次第に重くなり始めた瞼に抗うこともできずに羽根は瞼を閉じた。
程なく唇に何かが触れてくる。
それが朱鳥の唇だと気づいたのは唇の隙間から朱鳥の舌が入り込んできてからのことだった。正気ならすぐにその体をつきとばしていたところだが、今は何となく心地よくてこのまま朱鳥に抱かれていたいと思った。
それに何よりもとても怠くて眠い。
体を動かすことさえも億劫におもえてきてぐったりとした体を朱鳥に抱きしめられていた。
<「恋占い」カラオケルームにて4へ続く>
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