彼は光長を丁寧にソファーに座らせると向かい合わせのソファーに座って電話の受話器を手に取った。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[1回]
「悪いけどコーヒーを2つ持ってきてくれないか」
それだけ告げると受話器を置いた。
よく見ると彼は長い髪を後ろで束ねて優雅に振る舞う仕草は歌舞伎俳優のように品がある。
「それよりも会社に連絡しなくて大丈夫か?」
その言葉に光長は会社のことを思い出した。
だが、いったい何と言えばいいのやら・・・初出社の日にいきなり体調が悪い等とは言いにくい。まだ一度も出社していないのにいきなり不幸とかも難しい。
頭を悩ませていると彼が急に電話をかけ始めた。
「もしもし、株式会社月本の星埜ですが、ああ山浦部長はご在籍ですか・・・おはようございます。いえ、ちょっと野暮用なんですけどいいですか?実は今朝ちょっと電車の中で気分が悪くなりましてね。いえ、もう大丈夫です。ありがとうございます。それでその時、近くにいた青年が私を会社まで連れてきてくれたんです。その彼に聞けば御社に今日から出社する新人らしいのですよ。こちらとしては大変親切な良い青年なのでいきなり初出社に遅刻でイメージが悪くなってしまっては気の毒に思いまして。今ここに彼がいるのですが彼の上司に叱らないように言ってあげて欲しいんです。それから私としてもせっかくなので今日1日彼をお借りできないかという勝手なご相談なんです。」
彼は丁寧なビジネス口調ででっちあげた嘘を並べ立てた。その見事な話術に光長は呆然と聴き入っている。
「はい、いえいえとんでもない。こちらとしては御社にご迷惑をおかけして申し訳ないと思っています。いいですか?それは助かります。後日私も部長にご挨拶にお伺いしますよ。ではまた失礼します」
そう言って受話器を置いた。
「良かったな、今日いっぱいは休めるぞ。可愛そうに」
星埜という男は光長の名前も聞かずに光長のために嘘までついてくれた。
今時こんなにできた人間はいるのだろうか?何か下心でも・・・と考えそうになり光長は否定する。ここまでしてくれてそんなことを考えるだけでもバチがあたりそうだ。
「あの、星埜さんとおっしゃるんですか?どうしてそこまで僕のこと・・」
すると彼は目を細めた。
「いきなり失礼気を悪くしないでね。君はのんけ?」
光長は頷いた。
「やはりな、私はどっちもいける口なんだ。世間ではそれをはバイと言うね。だから君を見てすぐにわかったんだ。レイプされたって」
その言葉に光長は急に嫌なことを思い出して眉根を寄せた。
そこにノックの音がする。
「はいどうぞ」
星埜が答えるとドアが開いて若々しい男性社員がコーヒーを持ってきた。
「丁度良かった。もしも警戒していたらいけないから、彼、本田萩之介君が今の私の恋人だ」
「常務、いきなりなにを・・・」
萩之介と呼ばれた彼は真っ赤になって少しふくれて出て行った。
なぜかその仕草が可愛らしく感じられる。
「ああ、話を戻そう。君はちょっと色っぽくてきれいだからね。狙われるのもわかるよ」
今まで生きてきて光長は人にそんなことを言われた経験はない。例え彼が恩人でもあまりいい気はしなかった。
「あの星埜さん」
「月余でいいよ」
「月余さん?」
「ああ、下の名前だ。私はビジネスとプライベートを区別するためにオンは名字オフは名前で呼ぶようにしている。君は私のオフの友人だ。」
「友人・・・?」
怪訝そうに光長か口ずさむと月余は頷いた。
「ああ、そうだ君の名前まだ聞いていなかったな」
「失礼しました風間光長です」
「風の間に差す光か・・・」
月余の瞳が優しく微笑む。
「今度、いいところに連れて行ってやる。だか今は心の傷を癒すことだな」
その視線に少しドキッとした光長はうつむいた。
「光長君、君下の方ちゃんと消毒しておかないと病気になるよ。やり方知ってる・・訳ないよね。私がしてあげよう」
月余は立ち上がると壁のボタンを押す。
すると映画などでよくやっているみたいに絵の掛かっている壁が2つに割れて開いていった。
「すごい・・・」
光長は呆然と見つめている。
その向こうには寝室らしい部屋が現れた。
「実は私は忙しいときここでね泊まりすることがあってね」
月余が微笑む。
しかし、光長には中央に置かれていた大きなベッドが目に入ってきて怖くなった。
<「弦月」取締役室にて2へ続く>
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