その声に我に返った光長はここがステーションビルのトイレだと思い出した。
目の前にはスーツ姿の身なりの良さそうな青年が立っている。
「あ、いえ何でも・・・くっ」
そう言って立ち上がろうとした光長は思いものでも乗せられたような腰の痛みに思わず顔が歪んでしまった。
「顔色が悪い、救急車を呼ぼうか」
「あ、いえ大丈夫です」
あまりの恥ずかしさから痛いながらも必死で立ち上がると青年ははっとした。
「もしかして・・君・・・」
少し言いづらそうに光長の顔を覗き込んでくる。思わず光長がその視線を逸らすと彼は
「ああ、やはり・・・気の毒に」
青年は光長がここでレイプされたことに気がついた様子だった。
「幸い私の仕事先がすぐ近所なんだ、そこまで歩けるか?」
「あ、いえ、僕はこれから仕事に行く途中ですから大丈夫です」
ともう一度足に力を入れてみたが同時に崩れ落ちた。
「やはり無理だ」
彼は光長に肩を貸して歩き出した。
肩賭けしながら男が歩いているのも妙な光景だと思った。
まだ通勤時間のステーションビルには多くの人が行き来していたが、皆通勤時や通学時で忙しいらしくたいして興味も引かずに通り過ぎてくれた。
「ここだ」
ステーションビルから出て大通りを渡り、路地を抜けると近代的なビルの前でその男は立ち止まった。
光長は初出勤の日にこんなことになり道々男に事情を話してみると
「その会社なら私もよく知っている。私の仕事場に着いたらすぐに連絡すると良い」
彼は快く協力してくれた。
「おはようございます」
ビルの自動ドアを開けて中に入ると受付嬢が2人立ち上がって挨拶をする。
「おはよう」
爽やかに微笑みながら彼は受付嬢に挨拶を返した。
光長は肩を組んだままとても恥ずかしかったが一応挨拶をるす。
「おはようございます」
「あの、どうかなされたんでしょうか?ドクターをお呼びしますか?」
「いや、大丈夫だ。何かあれば私から連絡するから」
彼はそう言ってエレベーターホールに向かう。
途中すれ違う社員はみな丁寧に彼に頭を下げている。
(ここのお偉いさんなのか・・・)
光長は彼の顔を見つめた。
「さあ、私の部屋だについた。欲しいものがあれば運ばせるけどどうする?」
エレベーターは最上階で止まり、エレベーターを降りるとの絨毯が引かれている。
木でできた重厚なドアを開くと彼がそう言った。
「あの・・あなたは」
光長は初めて彼が何ものであるか気になり問いかけた。
<「弦月」取締役室にて1へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます。
リーマンものも喜んでいただけて嬉しいです。
PR