その間、服の仕立屋や靴屋、ヘアスタイリストなどが次々にやってきた。
「うわぁ~本当に天使みたいです。いや、失礼。でもマラーク様のような方は滅多にお目にはかかれません。いっそのこと背中に羽根が付いた服でも作ってしまいましょうか」
それはちょっと・・・と曖昧に微笑むとまた仕立屋はニコニコと採寸するふりをしながらマラークの体に触れた。
このっ!
マラークは笑顔の下でそんなことを思った。
「ガラスの靴を作りたくなるほどです。いかがです?私にお時間をくださればあなた様に羽の生えた靴を差し上げますが」
靴屋の男はマラークの足を舐める。
時間をくれとはマラークに相手をしろと言っているんだろう。
主人が不在だからといって、もし主人にしれたら・・・などと考えないのだろうか?
それともあのスティーヴンの差し金なのか?
最後に来たヘアスタイリストは無口な職人肌の男だった。
マラークが育ったブルザード公国と同じような肌の色と黒い髪と黒い肌の男だった。
「長さはどのくらいがよろしいですか?」
その男にアサドを思い出した。
「あなたはどんなのが良いと思う?」
マラークは男の首に両腕を回して抱きついた。
「お戯れはご勘弁ください。きちんと仕事をせねば叱られます」
そんなところがよく似ていた。
マラークはつい懐かしくて彼の頬にキスをした。
「・・・・・・・・」
彼は戸惑うがその顔色は赤くも青くもならなかった。
案外馴れてるのかもしれない。
マラークはどこかでそんな風に考えていた。
「私は・・・」
その男は鏡越しにマラークの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「せっかくなのでこの髪は伸ばされた方が良いと思います。絹糸のようにキラキラと美しい髪ですので大事にされるべきです」
どこまでも仕事に忠実なのか・・・
マラークはニヤリと笑った。
「長いと洗うのが面倒なんだ。乾かすのだって面倒だし、お前が私の髪を洗って乾かしてくれるなら伸ばしてもいいよ」
マラークはわざとらしく片手で髪に触れた。
すると彼はマラークの足下に跪いた。
「もったいないお言葉に感謝いたします。実は私の父親の国にあなた様そっくりな王子がいらっしゃって、たった一度子供の頃に見ただけでしたがとてもお美しいお方で」
彼はキラキラと瞳を輝かせながら遠くを見つめていた。
その純粋さにマラークは悪戯心が芽生えた。
「ざぁんねん!その王子様はここの主で金で買われて毎晩酷いことをされていました」
わざとおどけた様子で男を見下ろしたが、彼の表情はまた面をつけたように無表情に変わった。
「さ、お戯れはそのくらいにして髪を切りましょう」
「お前、名を何という?」
マラークは彼の頑固さが懐かしく、クスッと笑った。
「ミシュアルと申します」
マラークは跪いた彼の前に自分も跪いてその頬に手を伸ばした。
「よろしくミシュアル。お前に私の世話係を命ぜよう」
とその頬に口づけた。
ミシュアルは表情を変えずにそのまま
「もったいないお言葉。しかし主は」
と言ったところで、マラークはヘアカット用の椅子に座った。
「だからスティーブンなら私がベッドの上でお願いすれば何でもいうこときくよ」
読了、お疲れ様でした。
web拍手をありがとうございます。