だいぶ前からカマールは気づいていたらしい。
それでもナジムの甘い声を聞けただけで役得と思ったらしい。
「程々にって忠告したはずだ」
カマールの言葉にアサドは無表情なままナジムの髪をなでた。
「教育の一環です。あなたは黙っていてください」
教育と言われてしまえば、カマールには口出しすることはできない。
ただアサドの腕の中ですやすやと眠っているナジムはどこか幸せそうな顔をしていた。
「まぁ、これから王宮へ向かうという時ぐらいは自重すべきだな」
「ふん、無駄口ばかりたたかないであなたはあなたの任務を全うしてください」
アサドの言われてカマールがフロントガラスを見ると、数人の男が立ち話をしていた。
カマールはため息をつきながら車を降りて男達に近づいた。
男達は軍服のカマールを見ると慌ててその場から立ち去っていく。
散らすまでもなく、向こうから去っていった。
また車に戻ってきたカマールにアサドは
「やはりこんな時あなたは心強い」
とナジムを自分の膝の上に頭を置いて寝かせた。
「俺はそっちの役でも大歓迎なんだけどな」
冗談交じりにアサドを振り向くがアサドはキッと睨んだ。
「いいから早く行きましょう」
アサドの言葉に車はまた走り出した。
王宮に着く頃にはナジムも目覚めていた。
車が到着すると、王の側近がドアを開けた。
「マラーク様お待ちしておりました。王も首を長くしてお待ちです」
恭しくナジムに跪いてその手に挨拶のキスをした。
アサドは後ろから軽く挨拶をするがその瞳はなぜか鋭かった。
カマールもアサドの横に立つと、一行は宮殿の入口へと向かった。
だが、入口まで来ると王の妾でありマラークの継母にあたるミラが待っていた。
「これはこれはマラーク久しぶりね。随分とお母様にそっくりになってきたことですね。やはりあなたも王をたぶらかしに来たのでしょう?」
ミラは2番目の王子であるシャラフの母であり、マラークの母とマラークがガーリブ王をとってしまったとずっと思いこんでいる。マラークの母が亡くなってもマラークへの風当たりは激しくなる一方だった。
「れはこれはミラ様、相変わらずお美しいかぎりでございます。何をおっしゃいます。マラーク様などあなた様の大人の魅力に比べればまだまだミルク臭さの抜けない赤ん坊に等しい。王様もよくご存じでしょう?」
アサドはめずらしく笑顔を浮かべていた。
そう言われて満更でもないミラは、高笑いしながら
「それもそうですが、あのお方はそういう子供にもかなり興味をお持ちだから心配なのです。まぁ、アサド、あなたがいれば心配もないでしょう。それに今日はそっちの色男も一緒みたいですし」
とカマールに意味深な視線を送ると、奥へと消えていった。
「ほう、随分と許容範囲の広いことです」
「その言葉はそっくりお前に返してやる」
アサドの言葉にカマールも反論しながら苦笑した。
「さあ、マラーク様参りますよ」
側近の言葉で一同も奥へと歩いていった。
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