「うん、終わったらすぐ帰ってくるからね」
メリルはニッコリ微笑んで家を出た。
メリルの家は町外れの森の中にあった。
湖畔のほとりの静かな場所に一軒だけ建っていた。
家族は母の他に森で木を切る仕事をしている父と5歳年下の妹がいた。
メリルの瞳は右が深いブルー、左が緑色のオッドアイ。
メリルの両親はなぜかメリルを隠すようにひっそりと生活していた。
それでもとてもメリルに優しくて、メリルは温かい家庭で元気に育っていた。
メリルが通っている学校は町のはずれにある。
家からは少し離れていたが、買い物などがあるときはよくこうして帰りに買って帰った。
この日もメリルは学校が終わると真っ直ぐに店に立ち寄った。
そんな楽しそうな足取りで歩く少年を高級車の窓から見つめる者がいた。
店から出てきたメリルの横で高級車の窓がスッと開けられた。
「ごきげんよう、少し聞きたいことがあるのですが」
窓から現れたのは高級そうなスーツに身を包んだ若い男だった。
メリルに向けられた笑顔はとても優しそうだった。
「はい、何ですか?」
メリルは立ち止まると男の顔を見た。
「君はこの国の生まれでしたか?」
「えっ?まぁそうですけど。それが何か?」
すると彼は長い指先を伸ばして寄せられたメリルの前髪に触れた。
「この瞳、近くで見るととてもきれいですね」
その言葉にメリルは彼から少し離れた。
普段から母親に、「この瞳のことをあまり多くの人には知られないようにしてね」と言われていたのを思い出す。
「すみません。僕はこれで失礼します」
メリルはそのまま走って帰り道を急いだ。
「あの少年必ず手に入れてこい」
ひらひらと舞う蝶を見つめるように男は言った。
「かしこまりました。必ず」
と運転をしていた男が返事をすると車は滑るように音もなく走り去った。
この辺りでは見たこともないような高級車。
おそらく貴族だろう。
でも、一体何の用があってこんな田舎にやってきたのだろう?
やがてメリルは家に帰ってきた。
家の付近でいつも遊んでいる妹の姿がないのがちょっと不思議だった。
今日は具合でも悪いのかと家に近づく。
何かおかしい・・・今日はシチューだというのに母の料理の匂いがしてこない。
メリルは家のドアを開けた。
「ただいっ・・!!!」
頬を拭う温もりで目を覚ました。
ゆっくりと瞼を持ち上げるとアサドの顔があった。
とても怖い夢に体が震えていた。
その背中をなだめるようにゆっくりと撫でているのは意外にもアサドだった。
久しぶりにあの夢を見た。
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