月深は絶対にここから出ちゃダメだ」
優翔は何度も念を押して一つ上の嵐の部屋へ向かった。
電話じゃなくてわざわざ行ったのは、ホテル側には知られたくはなかったからだ。
月深はシャワーを浴びると優翔が持ってきた優翔の服に袖を通した。
シャツを着ると優翔の匂いがした。
月深は羽織ったシャツを両手で抱きしめるようにして優翔を体いっぱいに感じた。
優翔と一緒にいられるようですごく嬉しい。
そんなとき突然部屋に置かれていた電話が鳴った。
黙って鳴り響く電話を見つめる。
電話はいっこうに止まる気配がない。
月深はゆっくりと歩いていくと受話器を取った。
「・・・」
相手は何も言わない。
月深もわざと何も言わずに受話器を持っていた。
「月深だな」
受話器の向こうから竜一の声がした。
月深は受話器を持ったままだったが、ハッとして受話器を置いた。
置くとすぐに部屋のベルがせわしなく鳴り響いた。
優翔にしては早すぎる。
ベルは何度も何度も鳴らされる。
月深は服を着てからドアに向かって思い切りドアを開いた。
「やぁ、ご機嫌はいかがかな?」
一番見たくない男の顔が目の前に現れる。
「君は満更バカじゃないようだね。もしここで君が逃げれば君の家族は今よりも酷いことになっていたところだったよ」
卑怯な男・・・
こんな奴やくざなんて名乗らせることさえ許せない。
最低な男・・・
どうかこの場にせめて優翔が戻ってきませんように・・・
やっぱり俺は優翔とは同じ道は歩めない運命らしい・・・
月深の腕を竜一が掴んだ。
「肝心なときに逃げ出したんだ、その貸しはしっかり返してもらわないといけませんね」
間近に顔を覗き込まれると背筋からゾッとした。
<「更待月」月の砂23へ続く>
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