「ありがとうございました!」
優翔は店員に車のことを一通り聞き出すと、一度東京に戻るために車を走らせた。
聞き出した情報だけでは不十分だし、単身で乗り込んだところで月深を助けられるはずがない。
とりあえず店に戻って嵐と話がしたかった。
月深は湖の見えるレストランにいた。
だが、ついさっきまで薬で眠らされていたのと、目の前にいる男が気に入らず
せっかくの高級な料理もちっともおいしくない。
それどころか手を付ける気にもなれなかった。
「どうしたんだい?君のためにこの店を貸し切って贅沢な料理を特別に作らせたのに」
月深は隣に座っている男の顔を睨みつけた。
これでも鳥取組の息子のひとり。
こんな男にほどこしを受けるほど落ちぶれちゃいない。
「そんなことを望んじゃいねぇよ。俺を解放してくれ」
男はナイフとフォークでメインディッシュの肉を切り分けている。
「せっかくここに運んで来たんだから、それは出来ない相談だね。それに君のお兄さんのことを考えると、君は私のところにいるべきじゃないのかね」
「くっ・・・」
兄の太陽のことを考えて月深の顔が歪んだ。
前々からこの男は月深を欲しがっていた。
それを太陽がことごとく邪魔したため、汚い手口を使って太陽に罪をかぶせ警察に捕まえさせた。
月深や鳥取組に対しても圧力をかけて組を内部崩壊させようと動いていた。
鳥取組は日本でも有数の大きな組織で色々な人間が集まっている。
組自体は揺らぐことはなくても太陽がいなくなると、月深を追い詰めることは簡単だった。
その動きを察知した月深は別荘に身を寄せていたのだが、それも知られるまで時間はかからなかった。
男の名前は虎角竜一(とらかどりゅういち)という。
鳥取組に敵対する大手ヤクザだが、月深が学生の頃見かけてそれからなんとか月深を手に入れようとしている男だった。
紳士的で冷静だが冷血で手段は選ばない。
ようやく月深を目の前においているが、月深の足には重い鎖が繋がれていた。
これでは逃げられない。
「兄を助けたいだろ?」
食事をしながら上品に月深に尋ねる。
月深はキッと睨んだまま何も言わなかった。
竜一はナイフとフォークをテーブルに置くとテーブルの角を挟んで座っている月深の頬に触れた。
「きれいだ・・・」
月深は彼に触れられたところがぞわりと鳥肌が立つのを感じていた。
<「更待月」月の砂4へ続く>
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