こんな風に女性からされた経験はなかった。
優翔がいたクラブは高級だったから、女性からそんな淫らな行為を仕掛けたりはしない。
店の中でのそう言った行為も禁止されていた。
だから逆に戸惑ったのかもしれない。
「かっわいい!!」
隣の女性は大きな胸を押しつけるように優翔にしなだれかかる。
ふっくらとした大きな胸に押されるのもそう悪い気がしないのはやはり、自分がノーマルだからだと自覚する。
「お客様あまりからかわないでください」
ようやく優翔はその女性から身を離す。
目の前では羨ましそうに見ている光の視線と目があった。
「だって・・・ね、アフターあるの?私あなたがいいなぁ」
彼女はまた優翔にベタベタとくっついてきた。
優翔は助け船を求めて光を見ると光は頷いた。
「いいですよ。この男お持ち帰りください」
えっ、いいの?!この娘とやっちゃっても?!
優翔が彼女の顔を見ると彼女はまた優翔に抱きついてきた。
「ホント?!嬉しい。優翔、今夜はずっと一緒よ~」
と顔にグロスのついた唇を押しつけられてベタベタとする。
それでもあまり悪い気がしないのは、彼女が軽いノリで、優翔に対して愛など求めていないことをわかっていたからかもしれない。
もしもこれが真面目に優翔からの愛を求めてくればそれは別の話である。
どうせ煌びやかなこの場所は摩天楼みたいなもの
そういえばこの店の名前も「El Dorado(エルドラド)」、黄金郷だったな。
夢のような場所は幻だから、一夜の夢に過ぎない。
以前、優翔が支配人をしていた店もそうだった。
煌びやかなシャンデリア、フカフカの絨毯。ピカピカに磨かれたガラスのテーブルやグラス。
そこには一夜限りの夢が詰め込まれていたんだ。
次第に甦ってくる記憶に優翔は懐かしさを覚えた。
「どうかした?」
彼女が優翔の手に手を乗せた。細くきれいなネイルで飾られた指は生活感を感じさせない。
それこそが幻のようだった。
「別に、この後が楽しみだよ」
甘い言葉のひとつも言えないようじゃ客を逃してしまう。
優翔はそのくらいの知識はあった。
考えてみたら優翔にとってそれほど向いていない仕事ではなかった。
<「更待月」月の光7へ続く>
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