携帯電話のバイブレーターが鳴り響く、その音で目が覚めた。
それはジャケットのポケットに入れっぱなしで全然気がつかなかったが、静かな部屋の中でバイブの音は意外に良く聞こえた。
羽根は電話に出ていた。
「もしもし」
「やっと出たわね。一体今まで何していたの?心配したわ。自宅にもいないってお兄さんも心配していたのよ」
蒼の声だった。
そうだ兄さん心配しているだろうな・・もう帰らないと・・・
「あの・・すみません大丈夫です」
「良かった。安心したわ。会社に来られる?」
「ああ、はい」
羽根は蒼の言葉に頷いて電話を切った。
そう言えば自分の服はどこにあるんだろう?部屋の中を見回してから何もないことに仕方なく朱鳥を呼ぶために呼び鈴を鳴らした。
「はいお食事ですか?」
朱鳥が用意良くワゴンに軽食のサンドイッチと紅茶を載せて姿を見せた。
「あの・・・俺の服ってどこ?会社に行きたいんだけど」
「それは」
朱鳥はそう言って口ごもる。
雫に羽根を部屋から出さないように言われていたに違いない。
だが羽根は朱鳥の顔の間近に顔を近づけるとその頬に触れながらキスをする。
「お願い・・俺をここから出して」
「誘惑ですか・・・」
ため息と供に朱鳥は羽根の両腕を掴んで離した。
「そんなに出たいですか?」
朱鳥の言葉に羽根は頷いた。
「兄にも何も言ってこなかったし、きっと心配している」
羽根が静かにそう言う。
「あなたをここから出すわけにはいきません。もし出て行きたいのなら私の知らないところからこっそり逃げてください」
朱鳥の言葉に羽根は少し驚いた。これは自分は見逃すから勝手に逃げろと言ってくれてるのだろうか?
「でも服は・・・」
「そんなことは知りません。穴手が勝手に逃げるんですから、例え誰かの服を着て勝手に出て行っても私は知らないですよ」
そんなことまで何となく教えてくれる。そうか、雫かこの朱鳥の服を着ていけばいい。
雫はともかく朱鳥の服ならサイズも合うかもしれない。
「ありがとう」
「私はあなたに逃げられると迷惑するんですよ。どうして礼など・・・やめてください。これはせっかくあなたのために作らせたんですから食べてくださいね」
朱鳥はそんなことを言い、どこまでも羽根に甘い。
羽根はニッコリ微笑むと朱鳥に抱きついてその頬にキスをした。
それでも朱鳥は顔色を変えなかったが、気のせいかその瞳が少しだけ優しく感じられた。
<「恋占い」職場にて2へ続く>
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