羽根が翼のもとに戻った第一声を羽根は予想通りだと思った。
まぁ、そんなことは今に始まったわけではない。
翼が出席したいた懇親会はもう既に終わっていた。
2人はホテルを出てタクシーで羽根の部屋に戻る途中だった。
「あ、運転手さん、ここへ行ってもらえますか」
翼が紙切れをタクシーの運転手に手渡すと、運転手は頷いたステアリングを回した。
「どこへ行くの?」
羽根が翼に尋ねると翼はウインクをした。
「俺の行きつけの店。さっきは全然飲んだ気がしなかったし、何だか腹減った」
ああ、確かに俺も雫のせいでせっかくの高級ホテルの料理を食べ損ねてしまった。
今度雫に会ったら高級料理をご馳走させようと羽根は考えていた。
「あの男に奢らせる気なら俺も着いていくからな、大体お前のこと勝手に連れて行ってどんなに俺が心配したと思って・・・」
そこで羽根は翼の口を塞いだ。
もうその言葉はさんざん聞いたからうんざりだった。
やがて車は賑やかな繁華街へと入ってきた。東京タワーが見えたところを見るとここは多分六本木か麻布辺りだと思う。
坂道を車が渋滞しているのを見て翼は「ここでいいから」とタクシーの運転手に車を路肩に止めさせた。
「ここから5分くらいだから」
タクシーを降りると翼が前を歩き出した。
羽根もその後ろからついて歩いていく。
本当に5分くらい歩いたところで翼は立ち止まった。
割と普通の飲食店が入ったビルの3階を指して
「ここだ」と言った。
「ダーツバー?」
「まあ、そんなとこだけど普通に落ち着くから」
とエレベーターのボタンを押した。
2人でいっぱいになるくらいの小さなエレベーターに乗り込んで3階で降りると翼は店のドアを開けた。
「久しぶり翼」
まるで友達のようにフレンドリーな声がかけられて翼が店に入っていった。
後ろからおずおずと羽根がついていくと店の男が羽根に声をかけた。
「もしかして君が羽根君?」
スリムな体型に長い髪を後ろで無造作に束ねただけのおしゃれなタイプの男性が羽根に声をかけてきた。
「おいおい」
翼はその間に割って入ると羽根を自分の後ろに隠した。
「そうだけど触るな、汚れる」
<「恋占い」ダーツバーにて1へ続く>
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