目を開いた光長の目にハラハラとピンク色の花びらが舞い降りてくる。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[0回]
よく見ると辺りがピンク色に染まっていた。
ああ、桜が満開なのかと思いながら頭から心地よい体温が伝わって自分が枕にしていたものを振り返って見た。それは雅秀の膝だった。
雅秀は満開の桜を見ながらガラスの杯を傾けている。
光長はもう少し寝たふりをしていようと思ってそのまま雅秀の膝で目を閉じる。
と、その唇にふわりと柔らかいものが唇に触れる。それが雅秀の唇だと気づいたのは少しだけ酒臭い舌が光長の唇を舐め上げたから。だがそれはすぐに離れた。
雅秀は桜の木を見上げながらまるでこのひと時を大切に味わっているかのように静かに過ごしている。雅秀の顔が見たくなってうっすらと開いた瞼に月明かりに照らされた端正な男の顔が浮かび上がった。不老不死・・・・
誰もが憧れる言葉なのに実際にそんなものを手に入れてしまうと、まるで恨みや妬みの塊のように誰かを貶めたくなる。
人も木も限りあるからこそ美しい。それを物語るかのように咲いては散っていく桜。短いからこそその美しさに誰もが魅せられる。
もしも桜の精がいるのなら、今この不幸な男から永遠の命を奪ってやって欲しい。激しくも美しくパッと散る命を彼に渡してあげて欲しい。
そのためになら、自分はどうなってもかまわないとさえ思う。光長がそんなことを考えていると頬を両手で包み込むように雅秀の手のひらが触れてきた。
「起きてるなら、いい加減酒につきあえ」
静かな声にクスリと笑った。ゆっくりと瞼を上げると普段は鋭い感じのする雅秀の瞳が柔らかく見下ろしている。こんなに優しく見えるのは満開の桜と月明かりのせいかもしれない。
「もう少しこのままがいい」光長は雅秀の足の上に横たわったまま我が儘を言ってみる。
フンと鼻を鳴らして雅秀はまた桜を見上げた。
「もう何百年前から時が止まってしまったようだ。こうしているとあの頃から全然変わってねぇな。最もここは特別なんだが」
口に運んだ酒が飲み干されると光長はようやく体を起こして雅秀の杯に酒をつぎ足そうと手を伸ばした。近くに置かれていた酒の瓶を掴んでその栓を開けるとプーンとさっき雅秀に唇を重ねられたときと同じ匂いがする。
あまり酒は得意ではなかったが光長も飲んでみたくなった。
雅秀が飲んでいたキラキラと月の光に輝くガラスの杯を取り上げた。いきなり取り上げられた雅秀は驚いて光長の顔を見た。白くきめ細やかな素肌が月明かりにぼんやりと照らされるとまるで月の国の住人のようにこの世の者とは思えない。ふと光長がかぐや姫のように月に連れて行かれてしまうような気がしてその体を掻き抱いた。
急に抱き寄せられた光長は手にしていたガラスの杯をうっかり畳の上に落としてしまった。杯はキラキラと光りながら畳の上を転がった。
片手に持っていた瓶からも酒がこぼれて畳にしみをつけた。
「おい、零れるから」離せと言う言葉は雅秀の唇に奪われていた。
目覚めたときの口づけとは比べものにならないほど激しい口づけに光長はクラクラする。
雅秀が酒に酔っているせいなのか自分が雅秀の飲んでいた酒に酔わされたのかわからないがぐったりと雅秀の胸に体を預けた。雅秀はしばらく光長の口の中を貪るように口づけた。このまま息が止まってしまうのではないかと思うほど長い口づけをしてからようやく雅秀の唇は離れていった。離れてもかなり激しく吸われたらしくまだ唇がジンジンする。
怒ったような顔で雅秀を睨んでからハッとした。そういえばあれからどうなったんだろう?それともあれは夢だったのか?黙って彼の顔を見つめると雅秀は「ん?」と不思議そうに首を傾げた。
<「弦月」満開の桜の木の下で2へ続く>
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