このまま雅秀と不老不死の化け物になったとしても、そうじゃなくても、あれは全て夢で本当は違っていたとしても・・・
ここにいる雅秀の体温は確かに人間のそれで温かく普通だった。
「電車の中でのこと覚えてるか?」
ぼんやりと考えていた光長に雅秀が問いかけてくる。あれは衝撃的な出会いだった。できることなら忘れてしまいたいと思っていたし、2度と男の顔など思い出したくもないと思っていた。
まさかこんな風に気持ちが持って行かれるなんて思ってもみなかった。
あれは犯罪だ。本人の同意もなくいきなり強引にねじ込まれた時の痛みと何よりも屈辱におかしくなりそうだった。その男が新しい会社の先輩だと知ったときは恐ろしかった。
思えば逆にあの時から月余は光長のことを知っていたのだろうか?
「恨んだだろう」雅秀が無表情のまま杯に酒を注いだ。
その言葉を聞いてハッとした。
出会いは必然だったと以前聞かされた。雅秀が前世からずっと光長に執着してようやく再会できたために突然酷いことをされたのだと思っていた。
確かに恨んだ。その後もさんざん酷い目にあわされながら、前世で恋人同士だからってどうしてここまで雅秀の思い通りにされなくちゃいけないんだろうと思った。
何よりも酷いことに慣らされていく自分の体とそれに流されてしまった心が痛かった。
こんなにも自分が雅秀に愛されていたのだと気づいたときは体中が震えた。
人にはそれぞれ違った愛し方があって雅秀の愛情はこんな風にしか表現できなくて、でも自分はそんな酷いことをされるのが好きなおかしな癖があるのだとばかり思っていた。
「嘘・・・」
本当のことに今始めて気づいた。
雅秀の欲望は確かにそうすることで満たされていったということは変わらないと思う。でも根本のところで何かが違う。
「なぁ、するか?」酔っているのか少しだけ顔が赤い雅秀は久しぶりだった。虚ろな瞳で改めてそう言われて光長は揺れる瞳を泳がせる。
「ったく・・生娘でもあるまいし、さんざん大胆なことしたり言ったりしたくせに、何なんだお前」言葉とは裏腹に嬉しそうな声が聞こえた。
なぜか光長は今、遊郭用の緋襦袢の上に鮮やかな花柄の着物を身につけている。雅秀はその襟元に手の平を滑り込ませて首筋に口づける。
強く吸われて離れるとすぐに白い肌が鬱血した。雅秀はその跡に触れながら光長の上体を畳の上に押し倒した。
光長は見下ろしている雅秀に微笑んだ。
「嫌われたかったんだ」
頬から耳の辺りに触れていた雅秀の手のひらから僅かに緊張が感じられた。
「違うな」わざと口元を意地悪く歪める癖は、光長に意地の悪い印象を植え付けるため。
でもそんな顔さえも見慣れてしまうと甘い予感へと変わっていく。
雅秀の手のひらに自らの指先を重ねながら光長は瞳を閉じた。
すぐに噛みつくような口づけが光長を襲う。
短く声を発しながら雅秀の口づけに答えると雅秀の指先は光長の背中から下へと激しく上下した。
「ほんとう・・は・・・どう・・なの」
光長が合間に尋ねると雅秀はわざと口を塞いで言葉をしゃべらせまいとしていた。
着物の隙間から手を入れて足の間だから後ろに伸ばすと既にヒクヒクと収縮する光長の蕾を指先で突いた。
「あっ・・」
刺激を加えれば光長はおとなしくなると思われているらしく、雅秀はわざと光長の体の良い場所ばかりを口や指先で追い詰めていった。
<「弦月」満開の桜の木の下で3へ続く>
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