光長は爽やかな風が窓から運ぶ花の香りに目を覚ました。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[0回]
窓から流れる景色と心地良い揺れに身をゆだねながら、瞼を開くとすっかり日が高く昇っていた。
特急列車の個室部屋。向かい側には迎えに来た雅秀が背もたれに寄りかかって目を閉じていた。
使われた薬には記憶を消す作用もあったらしく、目が覚めると記憶が曖昧だった。
幸か不幸か座敷牢で拘束されたまでのことは覚えていたがそこでされたことや、その後客としたことの記憶があまりない。
ただ体中に残ったロープの後や腰から下がずしりと痛むことで何があったかくらいはわかる。
いたぶられた客の顔やそれが誰なのかも記憶にない。
多分それが薬を使った目的だったのだろう。
ただ忘れ去れるのであればその方がいいのかもしれない。無理に思い出したくはない。
どういう訳か男が帰った後に迎えに来た雅秀が光長の状態を見て、死ぬほど気持ちよくしてくれた記憶だけが残っている。感謝すべきことではないと思うが・・・
それからどういう経緯でこの電車に乗っているのかは全くわからなかった。
目の前で眠っている雅秀は疲れているのかスーツのジャケットだけ脱いでYシャツにネクタイはしていない。ボタンを3つ開けてチラリと覗くその胸板は光長の貧弱なものに比べると厚く男らしかった。
普段はピシッと固めた髪が風に乱されて前髪だけが顔にかかっている。その顔を見ていると光長を抱いている時の顔を思い出した。
よく見るとモデルの男性ファッション誌に登場するモデルのような顔立ちをしている。
光長は体の中がカッと熱くなった。
それを冷ますように窓に顔を近づけた。風に長めの髪をなびかせながら頬杖をついた。
しばらくして車内アナウンスが流れると向かい側の雅秀が延びをしながら目を開いた。
いきなり漆黒の瞳にじっと見つめられて光長は居心地が悪くなる。
「あの・・・」
何かを言わねば気まずい気がしてとりあえず声を出した。
揺るぎない瞳は真っ直ぐに光長を見つめている。
「これからどうする?」
だが雅秀は何も言わずにその手を伸ばして光長の手首を掴んだ。
「お前?あそこで俺以外にも挿れられたか?」
突然とんでもないことを言われて光長はとりあえず首を左右に振った。
「本当か?」
黒い双眸が近づいて来る。
光長はなぜかまた体が熱くなった。
(もう薬はすっかり抜けているはずなのに、俺おかしくなっちまったのかな?)
光長の唇に雅秀の唇が重なった。
突然塞がれた唇の間から熱い雅秀の舌が光長の舌を追って動き回る。
いつの間にか逞しい腕が光長の背中に回されている。
光長は逃げるように背もたれに寄りかかると雅秀は押さえ込むようにして長い口づけを味わっている。それはまるで体の中の隅々まで検分するように光長の嘘を暴こうとでもしているのだろうか。長いキスで光長はふと何か大切な記憶が封印されている気がした。
それは何だったか・・・考えただけで温かくなった心が急に凍りそうになる。
雅秀の腕を掴んでいた光長の手にギュッと力がこもると、雅秀は離れた。
「どうした?」
眉間にシワを寄せながら光長の瞳を見つめている。
「いや、別に」
光長は背もたれに寄りかかりながら雅秀から視線を逸らした。
<「弦月」特急列車にて2へ続く>
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