「こらこれじゃあ歩けないよ。桔梗放しなさい」
「嫌です。あなたにまだ聞きたいことがある」
「そんなのは後でお湯の中で教えてあげるから放しなさい」
しかし桔梗は楓の足を放さず、楓はついに畳の上に座り込んだ。
その体の上にのしかかるように桔梗が顔を寄せてくる。
「どうしてあんな風にあの男に抱かれたんですか?」
その言葉に楓が少し驚いた。
そんなことは今に始まったことではない。
こんな仕事をしているのだからあの客に限らず、同じようなことを皆している。
桔梗だってわかっているはずなのに、まるでだだっ子みたいにまとわりついてきた。
楓は桔梗の頭を撫でた。
「お前にはまだ早かったかもしれないね。私が悪かった」
桔梗は楓の胸の上に顔を載せている。
「やだ・・」
「え?」
「もうあなたが他の誰かに抱かれる姿は見たくない」
「バカだねだから言ったじゃないか、私の心はここにだけあると」
楓が自らの唇に指先で触れる。
その指をどかして桔梗は無理矢理楓の唇を奪った。
それは慣れない荒々しい口づけでごつんと楓の歯に桔梗の歯がぶつかるような不器用なものだった。
楓はそんな桔梗に自ら導くようにゆっくりと余裕で舌を絡めてきた。
しかし桔梗にはそれが気に入らなかった。
唇を楓の口から這わせて楓の襟元を開きながら首筋から鎖骨を伝う。
同時に手が楓の着物の袷を割って滑り込み楓の雄に触れる。
「やっ、やめてっ」
楓も慌てて桔梗を押しのけた。
ドンッという音がして桔梗が畳の上に転がると楓が体を起こして着物の袷をしっかりと握りながら立ち上がった。
「お湯に行くよ。こんな体でいつまでいさせるのさ、気持ち悪い」
吐き捨てるようにそう言われて慌てて桔梗も立ち上がった。
早足で廊下を歩く後ろから桔梗は一生懸命弁明する。
「ごめんなさい、僕はその・・・」
しかし楓は無表情のままスタスタと前を歩いていく。
ふと椿の部屋の前を通りかかると椿が声をかけてきた。
「おや、楓どうしたの今頃明けなのかい?これはまた濃厚な客だね」
そう言って目を細めて楓の握り持つ袷の辺りに視線を落とした。
桔梗はそれを見て反論しようと向き合うと楓の手に引っ張られた。
「それはもう、傾城ともなると金子も違うからねぇ、失礼」
それだけ余裕で答える楓に桔梗は胸がすくような思いで見つめていた。
そのまままた早歩きで風呂場へ向かう。
<「桔梗」20へ続く>
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