桔梗はぐったりとした楓の体をきれいに拭き取っていた。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[1回]
客との後始末をしているおかげでその手際はよかった。
楓の体がすっかりきれいになると、桔梗は楓が最後に塞いできた自分の唇に指で触れた。
絶対にここだけは許してはいけないと言っておきながら自らその禁を破ったのだ。
桔梗は楓の形の良い唇にその指先を伸ばす。
フワリとした僅かな感覚が先程の情事を思い出せて楓の歪んだ顔を思い出す。
あれが自分だけのものであればどんなに良かっただろう。
その指先を白く滑らかな頬に滑らせながらもう一度盗むように素早く楓の唇に自らの唇を押しあてた。
軽く触れて楓が目覚める前に桔梗は離れると
「お仕事しなければ」
自分に言い聞かせるようにして楓の部屋を出て花梨のいる自分の部屋へと戻っていった。
大好きだった兄はいつも優しかった。
だからいつだって兄のいいなりになってきた。
兄雅秀と楓は父親が違っていた。
楓は11歳の時に出会ってから本当の兄弟のように慕っていた。
その兄には母が違う兄弟もいるらしかったがそのことは楓は余りよく知らなかった。
当然その当時に楓は兄の雅秀がその兄弟のことを特別な感情で見ていることには気づいていなかった。
だがある日突然その兄が「優しくするから」と言って楓の体に触れてきた。
最初は男同士で兄弟ということに流石に驚いて楓は雅秀を拒んだ。
だが元々大好きだった兄だしそれほど嫌ではなかった楓はいつからか雅秀に体を開いてしまった。
しばらくそんな関係が続くと、楓は雅秀のことが本当に好きになっていた。
ところが兄雅秀はそれから突然ある道場に住み込みで入門すると言い出した。
「兄さん、行かないで!!」
「悪い、私には以前から好きな人がいたのだ。お前も好きだけどそれ以上に」
兄が自分をその人の変わりに抱いていたのだと気づいたのは兄が出て行く数日前の晩だった。
「兄者は私のことをその者の代わりに抱いておられたのですか?!」
「代わりではない。代わりではないが寂しさを紛らわせていたのは否めない」
更にそれが別の兄弟だという事実に気づいた。
わざと雅秀の前で死んでやろうと思って小刀を自らの胸に突きつけた。
しかし雅秀は楓の小刀の刃先を素手で掴んでしまった。
楓の目の前に広がる雅秀の真っ赤な血を見て楓は自分を傷つけるのはやめた。
そして雅秀は出て行った。ずっと昔から思い続けていた相手がいる道場へ行くために。
<「桔梗」11へ続く>
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