早朝からナジムの部屋にアサドがやってきて、着替えをすませると食事が用意された。
アサドはいつものように顔に面を張り付けたように微笑みさえしない。
アサドが表情を崩すのはナジムをいたぶっているときだけだ。
昨日は月明かりだけっだったが、アサドの表情はよく見えていた。
あの時のアサドは今とはまるで別人のようだ。
「お食事が進まないようですか、どこか具合でもお悪いのですか?」
ナジムがそんなことを考えながらアサドを見つめていると、それに気づいたアサドがそう言った。ナジムは再び皿の上に載せられているパンケーキにフォークとナイフを入れた小さく切り分けると、ベリージャムを載せて口に運んだ。
甘酸っぱいベリーの香りが口いっぱいに広がっていく。
朝から重いメニューじゃなかったことに感謝しながら、オレンジジュースを飲んだ。
「アサドは・・・食べないの?」
いつもなら向かい合わせの席に座って、一緒に食事をするはずのアサドはテーブルにさえついていない。
ナジムの一歩後ろに控えて立っている。
本来ならば、マラークは王子なのだからアサドは一緒にテーブルについて食事をするのは少しおかしい。
だが、ナジムならマラークとは立場が違うのだから、例えマラークの代役とはいえ誰もいないときにはそんなに形式張る必要はない。
「私はあまり食べたくはありませんので」
アサドがそう答えるとナジムは振り向いた。
「アサドの方が体調でも悪いんじゃない?」
ナジムの言葉にほんの僅かだけアサドの眉が動いた。
本の一瞬だったがナジムは見逃さなかった。
アサドはナジムが心配をしたことに動揺したらしい。
だがすぐに戻ったいつもの表情。
「そんなことはどうでもいいですから早く食事を済ませてください。王様にお会いになられるご準備をなさらないといけません」
せっかく人が心配したのに・・・
ナジムは残りのパンケーキを口に入れた。
食事が終わると、バスルームに向かった。
今日は先祖の魂を敬う宴だから
体を清めなければならないのだ。
だがすぐにアサドが後ろから着いてきた。
体を清めるのだから当然悪さはしてこないだろう。
バスルームに入ったナジムの服に手をかけて脱がせてくるアサドに、ナジムは抵抗した。
「何を期待なさっておられるのですか?」
アサドがニヤリと表情を変えた。
期待しているのは私ではなくアサドの方だ。
鏡越しに写し出されるナジムの裸体を、じっと見つめるアサドの視線が痛いほど突き刺さる。
たとえ手は出さなくともその視線だけでナジムは落ち着かなくなる。
それに気づいたアサドはわざと手は出さずにただ、後ろに控えていた。
すごくやりにくい。
別に手を出して欲しい訳じゃないけど、そうして後ろにいられると、そこからゾクゾクとしてくる。
ふと視線を上げるとアサドと目があった。
「触って欲しいとおっしゃればいかがですか?」
ナジムは左右に首を振った。
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