全然違うはずなのに、この頃良くこのナジムが本当はマラーク様ではないかと思う時がある。
きっとあまりにもマラーク様の姿を見ていないせいで、本当のマラーク様の影が薄らいでいるのかもしれない。
これはもう本気でマラーク様をお捜しするしかないのでは?!
部屋でひとりになるとアサドは冷静になれた。
ナジムの顔を見ていると何故かイライラする。
その感情を表には出さぬようにしているのだが、ナジムの痴態を目の当たりにしてしまうと歯止めがきかなくなっていく。
それをあのカマールに指摘されてしまうとはなんということだろう。
あの男こそまだ手をつけていなかったナジムの秘孔に自らの欲望をねじ込んだ張本人。
そんな最低な奴に批難されるとは許せん。
あの男は昔からカマール様を狙っていたのだ。
これがカマール様でなかったことがせめてもの救いではあった。
だが、その後で自分のしてしまったことに、少々歯止めがきかなくなってしまったことは反省している。
そう思いながらまたあのナジムに会うと、もっと歪んでぐしゃぐしゃになった顔が見たくてたまらなくなる。
ああ、そうじゃない。
違うんだ・・・私はマラーク様がいらした時からずっと
この天使のように真っ直ぐで汚れを知らない王子を自分の欲望の底に突き落としてしまいたいと願っていたんだ。
このきれいな天使の羽根をもぎ取って二度と笑えないほど歪ませてやりたいと、醜い欲望を抑え込んでいたんだ。
「アサド?とうしたの?・・・もう寝ていたのかと思ったよ」
真っ暗になった部屋には窓から差し込んでくる月明かりだけがベッドサイドに立つ人物を照らしだしていた。
既に夜中の2時を過ぎていた。
今日もさんざん酷いことをされて泣かされたナジムは、疲れきって眠っていた。
だがその頬に触れた温もりに敏感に目が覚めた。
「起こしてしまいましたか・・・申し訳ございません」
いつになく素直に謝られて、ナジムは少しだけ驚いた。
アサドのくせに弱気に見える。
ナジムが手を伸ばしてアサドの手に触れる。
アサドもハッとしてナジムの顔を見てから、もう片方の手を伸ばすとナジムの目尻に残っていた涙の後を拭った。
「キスしてもいいですか?」
何だろう?これは夢だろうか?
そうじゃなければ、これは誰?
ナジムが知っているアサドはこんな風に優しくはないし
こんな風にキスをすることをいちいち尋ねたりはしない。
ナジムが目を見開くとアサドの手が離れていった。
「申し訳ございません。明日はまた早いので、早くおやすみください」
ナジムがその手を追いかけようとするが、アサドの姿は闇に紛れて消えていく。
「おやすみなさい・・・アサド」
「初めてですね。あなたが私の名前を呼んだのは・・・おやすみなさいませマラーク様」
それを聞いた瞬間ナジムは凍りついた。
アサドが優しく接したのは、私にではなくてマラークにだったんだ・・・
そう考えると頬を涙が流れていった。
少しは歩み寄れたのだと思っていたなんて・・・
私はやはり愚かだ・・・
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