カミールはクスクスと笑った。
「俺はあんたが好きだけど、そういう上からものを言うような高飛車な態度が気に入らない。あんたがそう望むのなら思い通りにはしないよ」
マラークは船の中でカミールに探りを入れようとした。
「それじゃあ一体何が目当てなんだ」
両手首を後ろ手で縛られ、両足も拘束されていた。
かろうじて口は塞がれていなかった。
「それとも誰かに頼まれたのか?」
拘束されているにも関わらずマラークの瞳は興味津々といった感じで輝いていた。
その真相を知りたくて目の前にいるカミールに問い詰める。
カミールは椅子の背もたれに寄りかかるとため息をついた。
「少しは自分の身を案じたら、そんな風に楽しそうに問われると、こっちは興ざめもいいとこなんだけど」
いつでも誰もがマラークのいいなりになるブルザード公国とは違い、ここでは誰もマラークの言うことなどきかない。
と言ってもまだカミールと商人だけしか会っていない。
この船を降りて、自分がどこかへ連れて行かれればそれははっきりするのだろう。
この先多分誰もが自分を蔑んで、酷い目にあうのだろう。
酷い目ってどんなのだろう?
何かの本に指を一本一本折られるとか、足の指の間に針を刺されるとか、もしくは性的な暴行とか、殴られる?どれも嫌だけど新鮮すぎてワクワクする。
マラークには怖いものがなかった。
本当に恐ろしかったのは教育係のアサドが怒ったときだけ。
彼は本当に恐かった。
悪さをすると外出することを禁じられ、一日中くどくどと説教をされた。
退屈ほど怖いものはないとマラークは感じていたのだ。
「ねぇ、私は売られるの?どんなところ?そこで私は奴隷になるのか?それとも性奴か?」
「あのねぇ~王子様、そのお育ちの良さ何とかして。何も知らないからそんなに楽しそうに言ってるみたいだけど、あんた性奴ってどんなことされるか知ってる?」
「さぁ?わからん。お前は経験したのか?」
カミールは唇を噛みしめる。
悪気がないのかもしれないが、本当に人の気を逆なでする。
カミールはブルザード公国を追われたときにこの商人に売られたことがあった。
それも性奴としてフランスの貴族のおもちゃにされた。
その時のことは思い出したくもなかった。
両手で自分の体を抱きしめながらブルブルと震えていると、マラークが体を寄せてきた。
カミールは不思議と落ち着いてきた。
「知りたければ教えてやる」
カミールはマラークの青い瞳を見つめながらそう言った。
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