ああ、もう夕方か・・・
マラークは窓の縁にもたれかかって、ボーッと延々と薔薇が飢えられている庭を眺める。
ここも今まで自分が育ってきた宮殿もあまり変わらない。
裕福な家庭というのはどこも退屈だ。
ただひとつ違っていることは自分の立場。
今はスティーヴンという男の所有物ということくらいだ。
そんなことを考えているとマラークは窓の外から視線を感じてその方向を見た。
すると庭師が薔薇の枝の手入れをしていた。
「こんにちは」
マラークは彼に声をかけた。
見た目はマラークより年下に見える。
茶色の巻き毛でそばかすがある青年はマラークが声をかけてきたことにびっくりして、薔薇の花を1輪切り落としてしまった。
「しまった!!もう、いきなり声なんかかけてくるからびっくりして切っちゃったじゃねぇか!!しょうがないからやる!!」
庭師は切れた薔薇の花をマラークのいた窓に投げた。
マラークはそれをスッと受け取った。
「うん、良い香り」
「ブルームーン」
「え?」
「その薔薇の名前。きれいだろ?青みがかったその色はめずらしいんだ」
彼は気さくに笑った。
夕暮れだというのに彼はまるで太陽のようにキラキラとする。
「私はマラーク。君、名前なんっていうの?」
「アビー。あ、でもご主人様からマラークとはあんまり会っちゃいけないって言われてるんだ」
あいつそんなこと・・・
マラークは一瞬スティーヴンの顔を思い出してから、すぐにアビーに微笑んだ。
「少しぐらい話しても平気さ。どう?ここに来ない?」
マラークの言葉にアビーは頷いた。
そのまま彼は走って建物の中へ入ってきた。
程なくノックの音がする。
「はい、どうぞ」
マラークがそう言うとドアが開いてアビーが入ってきた。
今まで庭にいたままの格好だがマラークはいいことを思いついた。
「ねぇ、服を交換してみない?」
見た目は全然違うが背格好は同じくらいだから服のサイズも合いそうだった。
「でも、それシルクのシャツじゃない?庭仕事したら汚しちゃうからだめだよ」
アビーはマラークの着ていたシャツを見て首を振った。
「いいよ別に。大丈夫だからお願い!」
マラークはアビーに頭を下げた。
アビーは「そこまで言うなら仕方ないなぁ」と交換してくれることになった。
マラークがシャツを脱ぐとアビーはじっとマラークの背中を見つめていた。
「これ、どうしたの?ご主人様に殴られたの?」
背中の赤い痣を見付けて指で触れた。
そこはスティーヴンがしつこく舐めていた場所だった。
マラークはすぐに気づいてシャツを着て隠した。
「ううん、違うちょっと虫にでも刺されたのかも」
「それはいけない。俺が薬持ってきてやる」
アビーは着替え終わると部屋を出ようとした。
「大丈夫だからちょっと待って!」
マラークはアビーを呼び寄せると耳元でこっそり話をした。
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