羽根はこの会社に入社してから数回しかこの部長室には入ったことがない。それも直接部長と面会するなんて1回しかなかった。他はいないときに書類の提出をするくらいだ。
立派なデスク越しに新任の部長が眼鏡越しにこちらを見た。
「君が美津濃君ね。初めまして私が今日からここの部長の月岡葵です」
爽やかでクールな笑顔を見せて右手を出す。羽根はぺこりと頭を下げながら戸惑っていた。
ああ、そういえば帰国子女だって言ってたから握手なのか・・・
羽根はためらいがちに右手を差し出した。その手を取る彼女は思ったよりもごつい手をしているし握力も強い。さすがニューヨーク帰り・・・などと考えていると
「桧山商事の専務から連絡がありました」
たった今戻ってきた得意先の名前を出されて羽根は何かミスでもしたのかと驚いた。
それに気づいた月岡はニッコリと笑う。
「ああ、大丈夫クレームじゃないのよ。君受付で誰かとぶつかったでしょ」
それを聞いてハッとした。あの取締役が怒って電話してきたんだ。
羽根は何かを言われる前に頭を下げた。
「あの、大変申し訳ございませんでした。ボケッとしていてその・・・」
慌てる羽根を見た月岡がプププと笑っている。
羽根はその様子に顔を上げて月岡の顔を見た。
「あの・・・」
「いえ、違うのよ。謝りたいのは向こうの桧山さんで、君は被害者。彼はお詫びに君をディナーに招待したいらしいのよ。それで私が君に都合を聞きたかったの。」
“今日であった人はあなたの力になるでしょう”今朝の占い結果を思い出した。
まさか・・・そんなの偶然だ。
羽根は部長に
「どうして僕だとわかったんですか?」
「それは当社のバッジを見たらしいわ。それであなたが当社の担当だからすぐわかったの」
羽根は笑顔で続けた。
「そうでしたか。でも、お申し出はありがたいのですが、ぶつかっただけですしそんなのご馳走になる程」
「のこともないか・・・せっかく彼がそう言ってるんだし、君のお客なんだから、親交を深めておいた方が何かといいわよ。行ってきなさい。これは部長命令」
命令と言われれば背くわけにもいかない。
「はい、わかりました」
羽根はそう言って部長室を後にした。
結局早いほうが良いと今日の夜予定を入れられてしまった。
彼女と別れた羽根には埋まっている予定もないのだから仕方ないことだ。
<「恋占い」序章5へ続く>
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読了、お疲れ様でした。
web拍手をありがとうございます。
ちょっとエロまで時間がかかってます(^_^;)
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