体中が泥の中で眠っているように重い。
そしてその隣にいるはずの雅秀の姿はどこにも見えなかった。
一瞬、昨日のことが全て夢だったのではないかと思った。だが、この部屋には見覚えがありすぎる。雅秀に辱められた虚ろな意識の中で、間接照明に浮かび上がる壁に咲く牡丹の花が印象的だった。あまり目立たなくてもよく見るとカーテンも牡丹の花のようだ。
「牡丹の間」
部屋の向こうから少し掠れた声がして慌てて光長は声のした方向を見た。
そこには牡丹の柄のあるベージュのソファが置かれており、そのゆったりしたソファにもたれかかるように花梨が座っていた。
昨晩は大勢の男達の前で白く艶やかな肢体を晒して啼いていた。
あれから一体どんな目にあわされたのか考えただけで恐ろしかったが、今ここに座っている花梨はきちんとスーツを着込んでしゃんとしていた。
それこそあの出来事が夢だったのではないかと思えたが、掠れた声が昨日さんざん啼かされた証となっている。
慌てて起き上がった光長は自分の体がきれいに拭き取られていることに気づいた。
「ああ、私がきれいにしてあげたんですよ」
侮蔑するような視線でそう言われて光長は恥ずかしくなった。
あんな風に人前にさらされた花梨よりも、雅秀との行為の後を知られた自分の方が恥ずかしいのか?自分でも良く覚えていないほどの快楽を迎えた昨夜の後始末は大変だったはず。
光長は脱がされた浴衣に手を伸ばすと花梨は立ち上がって光長のところまで来ると、それを取り上げてバスタオルを手渡した。
「シャワーを浴びてきてください。身支度が調ったら僕が社長のところまでご案内します」
体の表面はきれいになっていても昨日雅秀に注ぎ込まれた蜜がまだ体の中に残っている。
体を起こしたときにとろりと中から流れ出す違和感に顔をしかめた。
あんな風に皆の前に晒されていた花梨の前で、自分が男に啼かされていたことを知られるのがとても恥ずかしかった。
光長はバスタオルを受け取るとそれを体に巻き付けて、そそくさとシャワールームに向かおうとした。
「一応お礼を言わせてください。あなたのおかげで僕はギリギリあの中の男に嬲られずに済みました」
「俺の?」
あなたのおかげと言われても思い当たらない。光長が眉間にシワを寄せると花梨は教えてくれた。
「この牡丹の間は別名隠しカメラの部屋。あなたと雅秀さんの激しい一夜はあの会場の男達にとって何よりも興奮する材料になったようです」
光長の顔から血の気がひいた。
あんな行為を見られてしまった。それも大勢の男達に。
だがよく考えればタイミング良く光長の戒めが解かれたことだっておかしかった。
あれは芳生がそのタイミングを図って解いたと言うことだったのだ。
「大丈夫ですか?でもここにいればすぐに慣れますよ」
感情の薄い花梨の瞳が光長に向けられる。
そんなことに慣れるとは一体どういうことなのか、この花梨の表情を見ていると恐ろしく感じられた。そういえばもうひとり桔梗と呼ばれていた彼も同じような感情が表に出ない表情をしていた。何が彼らをこんな風にしてしまったんだろう?
光長が無言で見つめていると花梨は不思議そうに問い返した。
「どうしたんですか?今更怖いなんて思わないですよね。あなたも僕らと同じように売られてしまったんですから」
「売られた?一体何の話だ」
そういえば雅秀がいないことが気になった。
もともと1日で光長をここに置いて帰る予定ではあったが、研修と言われていたはずだ。
「僕が説明しなくても社長の部屋に行けばわかります。急いでください」
そう言われて光長はとりあえずシャワールームに行こうとして立ち止まる。
「ビデオカメラ」
「ああ、今朝は止まっています。安心してください。処理しているところを撮っても興ざめです」
その言葉を信じても良いのだろうか?だがもう男達はこの館にはいないようだし。
昨日の痴態よりは何千倍もましだろう・・・
シャワー室に入ってコックを捻ると温かいお湯が心地よく嫌なものを流していく気がした。
<「弦月」書斎にてへ続く>
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