「本社の方ですか?あれ?森本さんは一緒じゃないんですか?」
「あ、いやちょっとはぐれて」
光長はそう言うと後ろを振り返った。
どうやらまだ起き上がってこないらしい。少しだけ心配になって戻ろうとするとその肩を誰かに叩かれた。
「良く来てくれたね。こちらへどうぞ」
いつの間にか他の社員たちは後ろに下がっていて少し貫禄のある大柄な男が光長の目の前に立っていた。
「支社長の田中です、久しぶりだね。」
今まで姿が見えなかった雅秀の声がして、光長は少しホッとしたと同時に、支社長という言葉に驚いた。さすがに貫禄がある男で声も大きい。
「森本君久しぶりだね。君が来てくれると聞いて楽しみにしていたんだよ。彼が新しい社員だね」
田中支社長は光長をニコニコしながら見ている。
光長が口を開きかけて自己紹介をしようとすると、雅秀はなぜかその間に割り込むようにして立った。
「はい、彼は風間君です。元々技術系の人間なのでぜひここの研究棟を見せたくて連れてきました」
「ほう、そうかゆっくりしていくといい。何か困ったことがあったらいつでも私に相談してくれ」
田中支店長は笑顔を光長に向けた。
「よろしくお願いします」
光長は雅秀の後ろから頭を下げた。
田中支店長が戻っていくと、別の社員が声をかけてきた。
「長旅でお疲れでしょう。どうされますか?」
「そうだな営業部に行ってクライアントの挨拶に同行する予定だ」
雅秀がそう言うと彼は
「丁度良かった。自分は営業3課の清水といいます。本日お二人と同行させていただきます。よろしくお願いします」
「こちらこそ」「よろしくお願いします」
何もかも初めてのことだらけで光長は最後のクライアントに回り終わると、どっと疲れた。
時間もそれほど多い件数は回っていないにもかかわらず移動時間が長いせいで20時を回っていた。流石に研究棟の沖田も帰ってしまっただろうと思いながら事務所に戻った。
「お疲れさまです。清水君から連絡をもらったんでお待ちしてました。」
事務所の隅に置かれた応接セットのソファーで長い足を組んでいた彼はそう言って立ち上がった。
「でもお疲れでしょう。今日はやめて食事に行きますか?俺おごります」
その言葉に雅秀の眉がピクリと動いた。だが特に何も言わずに光長をチラッと見ただけで
「俺は約束あるから、お前の好きにしろ」
と行ってしまった。そう言えば支社長と約束があると言っていた。自分は同席しなくても良かったのだろうか?等と考えていると目の前の沖田が光長の顔をニコニコしながら見ていることに気がついた。
「あ、そうですね。少し施設を見てから食事でもいいですけど、沖田さんはお疲れじゃないですか?」
「俺は一晩中だってここにいられますよ」
沖田がそう言って笑った。光長は沖田のボサボサの髪の毛やしわくしゃの白衣を見ながら納得した。
「それじゃあ行きましょう。楽しみだな」
沖田は子供のようにはしゃぎながら研究棟に歩いていく、光長はその後ろから続いた。
<「弦月」支社にて4へ続く>
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