「今日は生産側との交渉だから、お前はついてくるだけでいい」
車を降りて鞄を片手にそう言った雅秀は、何も知らなければできるビジネスマンのようにスマートで格好いい。
古い大きな商家のような家に先になって入っていく。
光長も慌てて後を歩くと玄関でスーツを着た若者が挨拶した。
「戸部商事の森永です。こっちは風間です」
簡単な挨拶をすると向こうも丁寧に屋号とその名前を言った。
彼らに案内されて応接室に通された。
あまり見ることがない古い格式がある作りで置かれている家具類も値打ちがありそうなものばかりだった。
その高級そうなソファーに2人で腰掛けて社長を待った。
5分ほどすると眼鏡をかけた長髪の男が部屋に現れた。
着物を着てその右手を森永に差し出して握手を求める。その姿はこのレトロな部屋にとけ込んで時代を遡ったような錯覚さえ覚える。
「お待たせしました。森永さんお久しぶりです」
「小田社長お久しぶりです。この度はご連絡をいただきましてありがとうございました。」
丁寧に挨拶を交わすと小田という男が光長に気づいた。
「おお、今日はまたおきれいな部下をお連れですね。お宅は社員を顔で選ぶのかな?」
“きれい”と表現されたことに違和感を覚えながら光長も自己紹介をした。
「ほう、光長君というんだね。まさに光の如くきれいな方だ」
小田の視線が光長の全身を舐めるように見つめる。
雅秀はそこで話をビジネスに戻した。
「ところで今度の新商品をうちに売ってくださるというお話ですが」
「ああ、戸部さんには色々と世話になっていますからね」
と小田の視線はなぜか光長をチラッと見た。
雅秀は既に小田の視線に気づいているのかわざと話題を光長に向けた。
「彼は新人でして、私の下で今まだ見習い中です。」
「そうだねこの商品のことを知っていただきたい。どうですか?君さえ良ければしばらく私のところで勉強していただくのは?」
話の方向性が光長をここで滞在させる方に進んでいる。
光長は驚いて小田の顔を見つめた。
「なぁに、風間君ならすぐになじめると思うよ。森永君だってやったことだし」
雅秀もここで修行したと聞かされて雅秀を見ると彼は珍しく額に汗を浮かべていた。
「まぁ、なじむのは少し時間がかかりましたけど・・・」
なぜか言葉を濁されて光長の不安は募っていった。
眼鏡の奥から鋭い視線を向けながら光長の手に小田の長くきれいな指先が重ねられる。
指先で光長の手に触れられただけなのに体を触られているような嫌悪感を感じた。
「あの・・でも」
光長は困った顔で雅秀を見ると雅秀は軽く口元を上げて微笑んでいる。
「じゃあ、そういうことで話は決まったよ。君の滞在で手を打とう。森永君も今日は色々と見せたいものがあるから泊まっていくと良い。」
小田がそう言って立ち上がり出て行くと2人きりで部屋に残された
<「弦月」商家にて2へ続く>
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読了、お疲れ様でした。
web拍手をありがとうございました。
コメントもありがとうございました。
おお、そういうのOKだったんですね。よかったです。がんばります。
いずれ拍手コメントのページを作りたいと思います。
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