うとうとしていたマラークにカミールが声をかけた。
上半身を起こすとカミールがきれいな衣裳を手にして立っていた。
「これに着替えてください。いよいよお別れです」
着替えを手伝いながらカミールがウインクする。
どうやらもう行き先は決まっているらしい。
船室の窓を見ると立派な街に近づいている。
「イギリスの実業家らしいです」
カミールが商人からこっそり聞き出したマラークの行き先をこっそり教えてくれた。
「イギリス・・・」
マラークははじめて見る異国の地をキラキラとした瞳で見つめていた。
「きれいな目だ」
カミールはマラークの日に透けて光る青い瞳を眩しそうに見た。
ここでは一体どんなことが自分を待ち受けているのだろう?
カミールのように酷い目に遭わされるのだろうか?
それは困ったな・・・それならアサドにでも一度この身を預けておくべきだったのか?
マラークはそう考えてからクスッと笑った。
まさか。アサドは優しいけどそういうんじゃないし、そんなこと思ってもみたことなかった。
ブンブンと左右に頭を振っているとカミールが手を伸ばしてその額に触れた。
「大丈夫?ショックで熱でも出たんじゃない?」
「あ、いや、その逆。楽しみすぎて」
マラークがニッコリ微笑んだ。
カミールは大きなため息をつく。
「もうあんたには降参だ。それなら心ゆくまで楽しんでくればいい。確かにあんたにとっては貧乏だろうが、何だろうが新鮮だからな。でも、帰りたくなっても帰れないんだってこと忘れるなよ」
そんな忠告もマラークのことを考えての事だろう。
いつか追い込まれて逃げ出したくなればと連絡先を渡された。
拉致したんだか、マラークに拐かされたのかわからなくなったカミールの肩に手を伸ばした。
「ありがとう。また会えるかわからないけど元気でね」
マラークはカミールの頬にキスをした。
そんな仕草はやはり気高く、一国の王子を思い出させる。
この人は生まれついての王子だというのに・・・
「支度はできたか?そろそろ行くぞ」
商人が船室のドアを開けた。
マラークが着替えた姿に口笛を鳴らす。
「ほう、流石王子だねぇ、見た目は似ていてもどこかあの奴隷の子とは気品が違う」
商人はマラークを上から下まで舐めるように見てからその肩に手を伸ばそうとすると
ピシャリとマラークにその手を叩かれた。
「逃げ出さないし、一人で歩けるから私に触れるな」
呆然とした商人はマラークが歩き出すとその後ろから苦笑した。
「いつまでそんな気取ったことがいってられるのやら・・・」
小声で呟くと、カミールは心配そうに前を歩くマラークを見た。
マラークは相変わらずキラキラした瞳で港を見回していた。
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