優翔の乗った車が屋敷の玄関に到着すると一足先に着いた竜一が立っていた。
部下と思われる男達が数人その後ろに控えている。
「・・・」
優翔はさっき竜一が乗っていた車の奥を覗き込んだが、もう誰も乗っていなかった。
「ああ、彼なら先に部屋に行ってもらったよ。ちょっと汚れてしまっていてね」
嬉しそうにそんなことを言う竜一を殴りたい衝動をこらえるのが精一杯だった。
今こんなところで手を出せばどんな目に合うかぐらい優翔にでもわかる。
和真は優翔の気持ちを汲んで嵐の背中を押す。
嵐も早々に竜一をせかした。
「早速案内してもらおうじゃねぇの」
「ああ、どうぞ」
余裕の笑みを浮かべる竜一が一体何を企んでいるのか優翔にはわからなかったが、素直に月深を返すとも思えない。
優翔が竜一の前を通り過ぎるとき竜一はイヤミな笑い浮かべていた。
「一体何を企んでやがる」
小声で和真に呟くと和真も後ろから着いてくる男達を警戒した。
「その奥の部屋にお探しの方がおいでです」
やけに丁寧な言葉遣いが余計にかんに障る。
嵐は導かれるまま部屋のドアを開けた。
「うっ・・・」
部屋の入り口で嵐が立ち止まった。
続いて和真が
「嵐、どうした?」
と部屋の中を見た。
「これは」
和真は部屋の中を見てからチラッと優翔の顔を見てもう一度視線を戻す。
優翔も「どうした?」と後ろから顔を出そうとしたところで和真の腕で遮られた。
「ちょっと待て」
2人の驚きに慌てる優翔に和真は逆に冷静さを求めた。
「待てと言っている。お前は何を見ても軽はずみな行動に出ないと約束できるか?」
優翔は軽く頷いた。
「本当に?」
もう一度重々しく尋ねた和真に優翔は
「それは・・・月深次第だが」
と言葉が濁る。
すると今度は嵐が向き直って立ちふさがった。
「それじゃあまだここを通すわけにはいかねぇな」
そんなやりとりを竜一はただ笑いながら眺めていた。
「畜生・・・」
優翔は小さくそう言った。
<「更待月」月の砂29へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます!
PR