「諏訪湖だ」
優翔は嵐と和真と一緒に嵐の運転者が運転する車に乗っていた。
「諏訪湖?」
「ああ、軽井沢周辺で虎角竜一が行きそうな場所は多分あのホテルだろう」
嵐は隣の和真と頷いた。
諏訪湖のあたりに別荘でもあるのか?
優翔が首を捻るが、まぁ、軽井沢からならそれほど離れてもいないし
それほど的が外れているとは思えない。
それにしても・・・
優翔は助手席に乗っているが、後ろには嵐と和真が乗ってる。
時々「だめだって・・・」などと言う和真の声が聞こえてきて
こいつらが何をしているのかあまり考えたくはなかった。
ホストクラブで煌びやかな世界で女性に人気のある和真なのに
嵐のどこがいいんだか・・・こいつヤクザだぜ・・・それもたちが悪い方の
あ、けど俺もそんな男に助けを求めるとか、終わってるな。
等と窓の外を見るとちょうど諏訪湖の上に太陽が沈むところだった。
きれいな夕日が水面を茜色に染めていく。
「きれいだな、月深と一緒に見たかったな」
ぽつんと呟く優翔の肩に和真の手が乗せられた。
「何言ってんだ、取り戻せばいくらだってそんなものみられるじゃねぇの」
「そうだけど・・・」
優翔が言葉を濁す。
その前に誰とこのきれいな夕日を見ているのかと考えただけで腹が立ってくる。
その男をめっためったにしてやりたいという衝動に駆られた。
「着いたぜ」
湖の畔に建つリゾートホテルの前で嵐が車を降りた。
優翔と和真も降りるとホテルから支配人らしき男が近づいてきた。
「ようこそ当ホテルへ」
きちんとスーツを着込んだ彼は嵐ににこやかに話しかけた。
「坊ちゃまお久しぶりでございます」
優翔がブッと吹き出した。
「どこ見て坊ちゃまだよ・・」
その頭に嵐の大きなごつい手が乗せられる。
「これでも若なんだせ、なぁ」
と支配人に同意を求めると彼は更ににこやかに頷いた。
「はい、お変わりございませんね」
と懐かしそうだ。
嵐は虎角の親しいこのホテルの常連だったのかと優翔が不思議そうにみつめていた。
「お部屋は」
「最上階のスイートは空いてるか?」
支配人が言う前に嵐がそう言うと支配人は笑顔の表情を微動だにも崩さずに
「あいにく先約がございまして、1階下のスイートになりますが、お部屋の広さは変わりませんので何卒そちらでお願い致したいのですが」
あくまで丁寧な物言いだがそれで嵐にはピンときたらしかった。
「竜一が来てるのか?」
「さぁ、どなたかは存じませんが虎角のお客様のようではございます」
さすが客の扱いは慣れているらしく、顔色ひとつ変えずにそう言う。
優翔はこの男もただものではないと感じていた。
<「更待月」月の砂9へ続く>
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