エレベーターが動く気配に月深は他の客が来たのだと気がついた。
両手首は拘束されていたが、足は自由に部屋の中を行き来できた。
月深は立ち上がると大きな窓に一歩近づいた。
もうすっかり日が沈んで、外は真っ暗だった。
夕日と入れ替わりに現れた月は細く僅かに水面を照らしている。
「今日はちょっと暗いなぁ」
何を思ったのかそんなことを呟いた。
竜一も立ち上がると月深の背中に腕を回した。
ずっと手に入れたくてようやく手の中に入れた宝物。
今すぐにそれを壊すもよし、大切に箱に入れてしまうもよし。
だが、こんな風に自由に動く月深を見て、月深を自由にさせておくことも悪くはないと思っていた。
「なぁ、これ痛いんだけど取ってくれないか」
しかし竜一は月深の縛られている手をその上から握りしめた。
「これくらいは我慢してもらわねぇとな」
握りしめる手が徐々に強く握られていく。
月深が竜一を振り返りながら僅かに顔をしかめた。
「・・・つっ!」
月深が声を出すとようやくその手が離れた。
「自由にはさせてるけど、お前は俺のモノだってことを忘れるな。お前にはもう帰る場所なんてねぇんだぜ」
と月深の肩を掴んで跪かせた。
端正な顔が悔しさに歪んだ。
その顔を見て竜一は、やはり月深を少しずつ壊していくことが一番楽しいと思った。
月深は絨毯の上に膝を付くと俯いていた。
その頬を竜一の指先が掴んだ。
月深が竜一の顔を見上げた。
「さぁて、どうしてくれる?」
竜一は口元を上げた。
だが月深はその視線をもう一度窓の外に向けた。
僅かな月明かりに青白く浮かぶ月深は本当に美しかった。
竜一は手を離してもう一度月深から離れるとソファの上で足を組んだ。
「来なさい」
月深は窓の外に向けていた顔を竜一の方に向けた。
「約束してください。俺があんたのいうことを聞いたら太陽を助けてくれると・・」
だがその言葉に竜一は笑った。
「太陽は警察に行ったんだから俺には」
「いいえ、あんたなら警察だって動かせる!だから」
<「更待月」月の砂10へ続く>
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