嵐が煙草に火をつけた。
優翔は月深のいるはずだった別荘へ行ったこと
その別荘には少し前まで月深がいたらしいがもう姿が見えなくなっていたこと
そして帰りのガソリンスタンドでそこの店員が妙なワゴン車を目撃したことを話した。
嵐は太陽が逮捕されたことを知っていた。
そして今、鳥取組が内部分裂していることまで知っていた。
「まさかとは思うけど、あんた何か関係してんのか?」
優翔は嵐にずばり聞いた。
だが、それに対して嵐は大きな声を上げて笑う。
「確かに鳥取組はうちの猿島組と同じくらい大きな組織で対立はしているが、一応同業なわけだ。気質のお前にはわからねぇかもしれねぇけど俺らヤクザにも暗黙の領域っつうかルールみてぇなもんがあんだわ」
嵐はテーブルに置かれていた缶ビールの栓を開けて口に含んだ。
「逆にどっちかがピンチに陥ったとき、これが人ごととは思えなくて手を貸したりする。新しい組織は違うかもしれねぇが、俺や太陽の組織はそう言った面じゃ運命共同体かな」
「それはちょっと・・・言葉の使い方を間違っているんじゃ・・・」
嵐の自信満々の言葉に和真がおずおずと訂正を入れた。
だが、嵐は月深や太陽の一件とはまるで関係がないとわかって良かった。
「じゃあ他に心当たりとかあれば」
「虎角組って知ってるか?」
嵐は急に真面目な顔でビール缶を手に持った。
それを喉に流し込んでから続ける。
「噂なんだけどな、そこの組長が昔月深がまだ学生だった頃に一目惚れしたとか何とか・・・確かに月深はあの容姿だしそんなこともあるかもしれねぇけど、あいつは蛇みたいにしつこい男なんだ」
嵐はそこまで言ってから何かを思い出したように拳を握りしめた。
優翔がふと隣に座っている和真を見ると和真は小刻みに震えていた。
何か怖い思いでもしたのだろうか・・・
優翔はその件には触れずに尋ねた。
「で、その虎角っていうのはどこへ行けば会える?」
「お前行く気なのか?!」
嵐が驚いて顔を上げた。
「月深が泣いてるかもしれねぇのに、俺が怖がってたらあいつはどうなるんだ?とりあえず行ってやるしかねぇじゃねぇか」
「それで策はあるのか?」
「別に」
ただそう答えた優翔を嵐も和真も見つめていた。
<「更待月」月の砂7へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございます。
PR