東間が心配して着いてくると言ったのを断りひとりで店を出た。
「木星兄さんが海外に赴任してから太陽兄さんが急に警察に捕まってしまったの。それも身に覚えのない罪で・・・月深兄さんのことは太陽兄さんがかばって警察の手は回ってはいないのだけど、その代わり今まで太陽兄さんの力で黙っていた下の組とか対抗する組がうるさく色々言い始めたの。月深兄さんだってそれなりの対応はしているけど何か仕組まれたとしか思えないくらい今滅茶苦茶なのよ」
愛菜は泣いていた。
「私は前に月深兄さんが嬉しそうにあなたの写真を見せてくれたのを覚えていて、兄さんにあなたに助けてもらえばいいのに・・・と言ってみたんだけど首を横に振るだけなのよ。あなたには何の関係もない世界の話だって」
車のハンドルを握りながらその言葉が繰り返し思い出された。
まだ家にいるのだろうか?
ちゃんと寝たり食べたり出来ているのか?
誰かに酷い目にあわされたりしていないだろうか?
顔を見るまで心配でいられない。
今まで何ヶ月も声さえろくに聞いていなかったというのに
そんな風に考え出すと愛しくてたまらない。
「あなたって酷い人・・・か・・その通りだ。月深のことなんか忘れて自分のことばかり・・・俺最低だな・・・」
ハンドルを叩いた。
愛菜が帰ってからすぐに月深に電話したとき、月深は嬉しそうな声で
「大丈夫だから、優翔は何も心配しないで仕事観張って」
と元気そうな声を出していた。
「今優翔と行ったことがある軽井沢の別荘にいるんだ」
それだけで充分だった。
優翔は
「月深、待ってて!いますぐそっちに行くから!!」
と電話を切った。
太陽がヘリで行けたのが羨ましい。
自分もいますぐ、飛んで行きたいのに
車じゃ2時間はかかってしまうだろう。
それでも優翔は夜中のフリーウェイを飛ばした。
「はい、優翔待ってて今開けるから」
月深は玄関のセキュリティのスイッチを切った。
同時にドカドカと靴音が響いて数人の大柄な男達が別荘の中に踏み込んできた。
月深が覚えているのはそれだけだった。
何かを鼻と口にあてられて杉に意識が無くなった。
ぐったりした月深の体を男達は運び出していった。
ワゴン車に月深を乗せてから男達も乗り込んでいく。
そのワゴン車はそこに到着してほんの数秒で月深を拉致して行ってしまった。
<「更待月」月の砂2へ続く>
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