早いもので数ヶ月が過ぎていた。
太陽の家は流石に組のトップだけあり、ヘタに電話も出来ないらしい。
月深が優翔に電話してきたのはほんの数回でそれも短時間しか話せなかった。
お互いに会うこともなく時間だけが過ぎていった。
月深がいなくても優翔は店で優秀な成績を収めていた。
元々優翔は水商売が好きで前の時も雇われオーナーをやっていた。
結果が伴わなかったのは経験が少なくまだ未熟だった制だと自分でもわかっている。
だからここで一から修行するつもりで戻ってきたのだ。
確かに厳しい仕事だけれど、考えようによってはなかなか楽しい。
相手は大抵女性だった。元々高級な店だから客のランクとしても酷い客はいなかった。
同伴していても女は男みたいに露骨に性交渉を望んだりはしない。
どちらかと言えば買い物やドライブみたいな普通のデートみたいなことを望む事が多かったから、それはそれで楽しめた。
優翔の先輩達も皆応援してくれるようになり、彼はいつからか№2になっていた。
№1は優翔の先輩の光だった。
その光の後押しが強いおかげで№2になれたと言っても過言ではない。
「優翔、今日俺の客に付いてくれる?」
その光に呼ばれて東間と一緒に席に着いた。
席には気品のある派手な40代くらいの女性と両脇に2人の女性とが座っていた。右側にはまだ優翔よりも若そうな女性と左側には30代くらいの女性、中央の女性の隣に光が座ってる。
「こっちが№2の優翔。それでこっちが東間、若いでしょ」
光は優翔と東間を紹介すると優翔と東間の両脇に座った。
東間がお客のグラスを手にとって酒をつぎ足す。
優翔は愛想笑いを浮かべて隣の客を見た。
が、その女は怒った顔をしていた。
このお客さん、来たことあったかな・・・
優翔は記憶を巡らせたがまるで思い当たらない。
優翔は来た客全部は無理でも、自分が席に着いた客の顔くらいは全部覚えている自信があった。
でもすごい睨んでくる。
「どこかでお会いしたことがありましたか?」
優翔は丁寧にその女性に尋ねてみた。
「いいえ」
その女性は不機嫌そうにそう答えると東間が作ってくれたグラスから酒を飲んだ。
(おいおい、なんだこいつ?きれいな顔してるのにすげぇ扱いづらい)
優翔は彼女に笑いかけだが、軽く無視された。
だが、彼女は光と東間には笑いかけていた。
一体何が気にくわないのか優翔は考えを巡らせていた。
だが、全く思いあたらなかった。
やがてその客が帰る頃になり彼女がようやく優翔に口を開いた。
「あなたって酷い人。月深兄さんがかわいそう」
(月深兄さん?!月深の妹なのか?)
そう言われてみれば輝くような美しさは月深に似ているかもしれない。
東間なんかチラチラと彼女を意識していたし・・・
え?マジで?!
「君は?」
「私は鳥取愛菜(まな)月深の妹です。どうしてあなたは兄さんに会いに来てくれないの?兄さんボロボロなのに」
この時はじめて優翔は月深に何かが起きたことを知った。
<「更待月」月の砂1へ続く>
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