月深はもしかしたら感づいているのか、シャツにスラックス姿でソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
シャツのボタンは3つくらい開けられて首元から除く鎖骨が月深の線の細さを強調している。
肩につくくらいの長めの髪を後ろで無造作に束ねた姿はヤクザと言うよりもIT産業か何かの若手社長とか貴族のようだ。
優翔はバスローブ姿のまま月深の隣に座った。
「コーヒー飲む?」
と立ち上がろうとする月深の手首を掴んで優翔は抱き寄せた。
まだ濡れた髪が月深のシャツを濡らす。
「まだ濡れてる」
月深は優翔の背中のバスローブを掴むと引き離した。
「いらない・・・月深を抱きたい」
優翔はもう一度月深を抱き込んで耳元に囁いた。
「何が欲しいんだ?」
しかし月深は微笑む。
「店が欲しい・・・」
優翔が小声で呟く
「お前に借りた金を返したい。けど俺には今何もない」
月深の頬に両手を添えながら真剣な瞳でそんなことを言う。
「だから俺に奉仕してその代償に店をくれと?それでまた金を返すと?」
どこまでも都合のいい話だった。
優翔は一度店の経営に失敗している。
それが嵐の陰謀だったとしても、それに気がつかなかったのは完全に優翔のミスだ。
だが、それが足かせとなり優翔は借金が無くなるまでの間
ずっと月深との関係は続けられる。
優翔のことを慕っている月深にとって悪い話ではなかった。
損をするかもしれないということを除けば・・・
「兄貴に話さなければならないな」
「お兄さん?」
「ああ、太陽兄貴。俺には2人兄がいるが、長男は普通のサラリーマンですぐ上の太陽兄貴が組の跡取りになっているからな。大金を動かすには親父だけど、兄貴の方が何かと都合が良いんだ」
月深は微笑みながらコーヒーカップを口元に運んだ。
優翔は色っぽい月深の唇を見つめていた。
月深はもう片方の手で携帯を取り出すとすぐにかけ始めた。
「兄貴、うん・・え、大丈夫だよ。今から?ああ軽井沢だけどいいの?じゃあ待ってるから」
何ら普通の家族と変わらない会話を終わらせて電話を切った。
優翔はまだ月深の顔を見つめている。
「今からここに来るって、兄貴過保護なんだ」
と月深は笑い出した。
自分がいるとまずいんじゃないか?
優翔は慌てて立ち上がった。
「ん?どうした?」
「服着る。まずいだろこれ」
とベッドの残骸を指さす。
「ああ・・まぁ、軽く殺されるかも」
殺されるに軽くも重くもないだろ!!
と月深を見ると彼はまだ楽しそうに笑っていた。
こういうところの感覚がどうやら人とは違うらしい。
優翔はバタバタと走り回りながら服を着ると片付けはじめた。
<「更待月」月の石11へ続く>
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