兄はそれだけ言うと自分もシャワーを浴びるために立ち上がった。
羽根も立ち上がって部屋のテラスがあるところので来ると、テラス側の窓を開けた。
その瞬間爽やかな風が緑の香りを運んでくる。
たった今重苦しかった空気が入れ替わった気がする。
「なんだって兄さんまでそうなるんだろう?何か変な術にでもかかってんじゃないか?」
羽根は窓の外を見ながらぼんやりと呟いた。
せっかく仕事を休んで心も体もリフレッシュするつもりだったのに・・
まあ、でも兄の弟好きは今始まった訳じゃないから多少は慣れているけど、キスとか体の関係はちょっと嫌だと羽根は思った。
子供の時からふざけてそんなことをしていたけど、あんな風に真面目な雰囲気で舌まで入れられるとやはり戸惑う。
元々嫌いじゃないから一番困るし存在が近すぎる。
他人ならば別れたりすれば永遠に会わなくなったも困らないけど、大好きな兄とはそう言う関係にはなりたくはない。
「羽根!」
窓辺に座っているとシャワーをあびて出てきた翼が羽根にビールの缶を投げた。
羽根は名前を呼ばれてそれを受け取る。
「って・・朝から?」
「どうせ休みなら付き合え。俺も夕方の懇親会までは暇だ」
手渡された缶ビールがひんやりと冷たくて美味しそうだ。
羽根はあまり酒は強くはないが、こんな時間からだったらどうせ1日は長いし、まぁいいかと缶の蓋に手をかけて開ける。
プシュッと小気味のいい音を立てて缶ビールの泡が少し噴き出した。
「乾杯」
翼が缶を差し出してきたので羽根も缶を軽くぶつけた。
「羽根、お前男を知っただろ」
唐突な兄の問いかけに羽根はビールをこぼしそうになって慌てた。
「何だかお前が兄ちゃんから離れて行くみたいで寂しかったんだよ。だからキスした。それでもお前が離れるってんだったら・・・」
羽根を見つめていた翼の視線が細められる。
「俺は離れないよ。兄さんは兄さんだよ。世界にたったひとりしかいない」
そう言う羽根に翼は抱きついた。
「世界にひとりか・・嬉しいな。お前にそう言われるとすげえ嬉しい」
羽根の頭を大きな手のひらでがしがしと撫でた。
「痛いよ・・もう」
羽根は笑いながら兄の顔を見る。
「だからもう、あんなことしないで」
「やだ」
羽根の言葉に翼が即答すると羽根はため息をついた。
のんびりした平日の静かなひとときに羽根はたまにはこんな休日があってもいいなと思っていた。
<「恋占い」シティホテルにて1へ続く>
にほんブログ村
読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございました。
PR