キラキラと新緑の間から容赦なく春の日差しが差し込んでくる教室。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
[0回]
高校最後の春が来た。今年で親友の雅秀とも離ればなれになるのかと思うと何となく寂しい気がする。光長は窓から体育着を着ている同級生を目で追いながらそんなことを考えていた。まだあと1年もあるじゃないか・・・
気が早いとひとり微笑んでいるとそれに気づいたのか校庭の雅秀が、2階の教室にいる光長を見上げて手を振った。光長は周りのクラスの連中には気づかれないように小さく手を振った。
「光長、お前って色っぽいとかいわれたことねぇか?」
昼休み教室を出て屋上で雅秀と昼食を食べていると急に雅秀が光長にそんなことを言った。
光長は飲んでいたジュースを噴き出しそうになるのを何とかこらえて涙目で雅秀を見た。
「おまっ、飲んでるとき急に変なこと言うなよ」と言いつつ頬がカッと熱くなる。
雅秀は熱くなっている光長の頬に冷たい手を添えた。
こんなに暖かい日だというのに驚くほど冷たい手をしていると光長は思った。
「で、本当はどう?言われたことある?」
雅秀の言葉に光長はふと夢を思い出す。
誰かが光長を押し倒しながら何度も耳元で囁く。その言葉あまりにいやらしくて夢の中だというのに光長はその夢を見ると朝、下着を汚していた。
それを雅秀に気づかれてしまったよう目を泳がせた。
「何でそんなに動揺してるの?もしかして何かあった?」
笑いながら離していた雅秀の瞳が真剣になり光長を見つめてくる。光長は余計に緊張して赤くなった。
片手で雅秀が頬に触れていた手を払う。
「何も・・何があるって言うんだよ。男だぜ俺」
すると雅秀は光長の耳元で何かを囁いた。夢の中で誰かが囁く言葉・・・
「えっ?!」
光長が慌てて雅秀を見ると雅秀は笑った。
「今日、学校が終わったら俺ん家来ない?」光長はまだ何も言えないままただ頷いていた。
「よし、じゃあ決まり。俺の秘密お前だけに教えてやるから」
雅秀はそう言いながら立ち上がった。
「そろそろチャイム鳴るぜ、俺は次音楽室だから先に行くな、じゃあ帰りに」
と手を振って屋上から去っていった。
光長はまだ呆然としながら自分の頬に触れる。何度も見る同じ夢には何かのメッセージが隠されているのか、自分の潜在意識なのかどちらかだ。
もしも後者なら自分の欲求だということになる。
雅秀はそれについて何を知っているというのだろう?
それから午後の授業には身が入らず、いつの間にかホームルームも終わって雅秀が教室まで向かえに来た。
「お前等ってホント仲良いよな」クラスで光長と仲の良い月余が笑った。
「光長、月余と何話してた?」
教室を出たところで雅秀は光長の腕を引っ張った。
「別に」光長は笑いながら雅秀の顔を見た。
その瞳になぜかドキリとする。いつもの雅秀とは何となく雰囲気が違う。
少し大人っぽいような、包み込むような優しさが溢れだしているような・・・
光長は雅秀から目を逸らして先に昇降口まで歩き出した。
<「弦月」弦月2へ続く>
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