光長は芳生の言葉に頷いていた。
雅秀と同じ不老不死の体を手に入れることができる。
そう考えると不思議な気分だった。たとえ嘘でも今更騙されたからと言って傷つく身の上でもない。
光長は立ち上がった。芳生は桔梗と向き合っている。
これ以上この部屋にいればきっと巻き込まれそうだ。
光長が立ち上がると芳生は
「では明日までゆっくり部屋で休んでいてください。明日使いを向かわせます。それまで私はこの桔梗をたっぷりと泣かせてあげましょう」
聞いてもいないのに、桔梗のことを言われると体が僅かに反応する。
光長は自分と交わっていた桔梗のことを考えてしまった。
光長が廊下に出ると花梨が待っていた。
桔梗とは双子で顔は似ているのに性格はまるで違う。一方の桔梗が酷い目にあわされていても我感ぜずといった感じで知らん顔をしている。
花梨に廊下を案内されながら光長はそう思いながら彼の顔を見つめていた。
「何か?」
案内しながら視線だけで光長をとらえた。
「あ、いや、君も相変わらずだなと思ってね」
光長は苦笑するが花梨はにこりともしない。
「ふん、あんたが来るとろくなことはないよ」
こんな花梨でもやはり桔梗を心配しているんだと光長は少しホッとした。
部屋に戻った光長はすっかりきれいになっているベッドに倒れ込んだ。
体がだるい。ここまでの旅の疲れも癒えないのにいきなり桔梗とのことで精神的にもかなり疲れていた。
ふんわりとしたベッドの上で爽やかな心地良い風を受けながら目を閉じるとそのまま眠ってしまった。
気がつくと光長は海岸にいた。
ザーザーと大きな波の音に雑音は全てかき消されている。
潮のにおいのする風が髪を湿らせる感じがして頭に触れた光長は自分の髪がつむじの辺りで結わかれていることに気がついた。
慌てて自分の着ているものを見ると着物に袴姿だった。
また夢の中のあの世界なのだと、夢の中で自覚するのは何度も同じ夢を見ているからだろう。
ふと横を見るとやはり砂の上に雅秀が横になっていた。
雅秀は光長を抱いた後なのだろうか、着物を乱した格好のまま大きな空を見つめている。
不思議と光長は体のどこにも違和感を感じていない。魂だけが入れ替わっているおかげで痛みなどは感じないのだろうか?
不思議に思いながら雅秀の顔を覗き込んだ。
「ん?」
男らしい眉が動いた。今この状態はどういう状況なのかが知りたくて光長は雅秀の顔に近づくと、彼は驚いたような戸惑うような顔をする。
もしかしたらまた無理矢理雅秀に体を要求されたのだろうか・・・光長のがそんなことを思っていると体が砂浜に押さえ込まれた。天地が逆転して目の前に真っ青な空が広がる。
こんなに青い空は見たことがない。光長は呆然と空を見つめていると心配そうに雅秀が覗き込んできた。
「お前、頭でも打ったのか?」
それがおかしくて光長は笑い出すと、雅秀はいっそう不思議そうな顔をした。
強い風が頬をかすめてその冷たさで目が覚めた。
まだ窓の外は暗くて開けられている窓からカーテンがヒラヒラと風になびいている。
まるで何かを伝えようとしたかのような夢だった。雅秀の顔が目に浮かぶ。
ふと暗闇の中に夢の中で見た青空と雅秀の男らしい顔が浮かんだ。
<「弦月」再び商家にて6へ続く>
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読了、お疲れさまでした。
web拍手をありがとうございました。
J庭参加された方、お疲れさまでした。春コミには二次で参加するので出費はこらえたかったのに
気づいたら結構買ってしまいました(^_^;)
売り子していたところの方に次回は出ませんか?と言われましたが
二次が忙しいしオリジナルは素晴らしい作家さんが多くてとてもじゃないけど敷居が高いです。
まぁ、今のところはそう思っています。
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