光長はあれからもう一度眠ってしまったらしく、花梨に声をかけられて目を覚ました。
※ここからは18歳以上の方のみどうぞ
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「朝食はこちらに運びますか?ダイニングかそれともお天気も良いので庭で取られますか?」
「う~ん、君も一緒に庭で食べないか?」
光長の提案に少しだけ花梨が動揺した。が、すぐにいつもの彼に戻った。
「私は結構です」
「そんなこと言わずに、つきあえよ。ひとりじゃうまくない」
シャワーを浴びに浴室に向かいながらそう言うと花梨は無言のまま着替えの準備を始めた。
浴室から出て着替え終わると、庭に朝食の支度が調っていた。
テーブルの上には2人分の食事が用意されている。こんな風に無愛想でもちゃんと光長の要望を聞き入れてくれることがなんとなくおかしくて、光長はクスリと笑った。
「あなたが望んだ事じゃないですか、長いつきあいになるなら少しでも円滑に過ごした方がいいでしょう」
花梨はすこし頬を膨らませた。
それがまた可愛らしいと思ってしまう。
ニコニコとテーブルに座ると向かいの席に花梨も座った。
「本当にそんな薬があるなんてあなたは信じているんですか?」
唐突に尋ねられて光長は水の入ったグラスを持ちながら花梨を見た。
「なんだ、聞いてたのか。君ならどう思う?」
逆に尋ねてからグラスの水を口に含んだ。
「私は信じませんよ。実際にそうだとしても永遠の命なんか欲しくない」
「ふうん、でも桔梗君なら欲しいかもしれないね」
今度は花梨がクスリと笑った。
テーブルの上のサラダに手を伸ばすと自分の皿に取り分けた。
「おいしい。うちの料理人は優秀なんですよ。全部社長が引き抜いてきた人ばかりだ。社長は確かに魅力的な人だけど、あの人は私たちのことを使用人としか思っていない」
淡々と話す花梨も表には出さなくても芳生のことが好きなのかもしれない。
以前来たときもそんな感じがしていた。
「だから不満なの?自分に振り向いてくれないから、桔梗ばかり可愛がるから」
光長が花梨に尋ねると花梨は食べ物を片っ端から口の中に放り入れながら
「私は桔梗とは違うと言ったじゃないですか!それよりご自分の心配でもした方が良いんじゃないですか?!あいつ前もあなたに酷いことしてましたよ。あなたは拷問のような仕打ちを受けたじゃないですか」
光長は記憶を消されて何をされたのか覚えていなかった。
だからここにも来られた。酷いこと?でも知らない方が幸せだと思っている。相手も知らない方が良いに決まっている。
「心配してくれるの?」光長は花梨を見つめると彼は頬を赤くして視線を逸らした。
「いくら何でもあれは酷すぎです。社長もおかしいですよ・・・あんなの・・」
そんなに酷い目にあったのだろうか?気づいたら体が酷くだるかったことしか知らない。
花梨の言葉を聞いても今更逃げる訳にもいかない。
光長はふと夢の中で見た雅秀の顔を思い出した。それからフッと笑った。
「いいよ、ありがとう。僕は大丈夫。今更どんな目に遭おう傷のつく体でもないよ」
それよりも永遠の命が欲しいのだろうか?自ら好きな相手を裏切ってまでして欲しいのだろうか?いや、どうせ長く生きながらえるのであれば、そんなことはすぐに忘れてしまう。
少しぐらいの痛みがなければ欲しいものなど手には入らない。
「そうですね私が口をだすことじゃないですね」
流石に余計なことを言い過ぎたと花梨は口をつぐんだ。
「君は何が欲しいの?」
「桔梗」
花梨は食べながら顔も上げずに答えた。
「私たちは前世で恋人同士だったんです」
淡々と答えた花梨はやはり前世のことは信じているらしかった。
「それより、あなたはここから出て行った方がいいと私は思いますよ」
そんなことを言う花梨に光長は驚いた。
彼の顔を見つめていると、ようやく顔を上げた。
「誰よりも大切な人がいるなら、こんなとこにいたらいけない」
なんだか花梨が自分よりも大人びて見えた。
<「弦月」再び商家にて7へ続く>
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