「これはいいだろう」光長が雅秀の手を押しとどめると雅秀は負けずにそれを振り払った。
「だめだ。これを付けてもらう」チェストから紐みたいなものにレースが着いている物体を取り出した。ベッドに横になっていた光長の体を起こすと雅秀はチャンスとばかりに下着をはぎ取った。そのまま手にしていた紐のような物体を器用に光長の足に通す。
「これが下着か?」光長は驚いて自分の恥ずかしい格好を見つめている。
僅かに三角形のレースが雄の前にあてがわれているだけであとは殆ど紐しかない。
「いいから気にするな」雅秀は楽しそうに衣装を手にとっている。
気にするなと言われても何だがスースーして落ち着かない。女性というのはこんなにいつも落ち着かない格好をしているのかと思うと尊敬する。
雅秀が持っているのは今度は鎧の胴あてのような形のものだった。それを上からかぶると後ろの紐をぎゅうぎゅうと締めつける。
「痛い、苦しい」「少しだけ我慢しろ」文句を言う光長に容赦なく締めつける。
ようやくそれが終わると最初に見せられた重そうなドレスを持ち上げた。
あちこちにレースだのビーズだのキラキラ光るものや飾りが多い分重さもありそうで光長は見ているだけでどっと疲れた。
足を通すと腕を入れて最後に雅秀が後ろからファスナーを閉める。
そうしてできあがると雅秀は光長を見ながら首を捻った。
「やっぱりまだ足りねぇな」
光長は何が足りないのか訳がわからずきょとんとしていると雅秀は手元の電話を取ってホテルの従業員らしき人に連絡した。
程なく部屋のドアがノックされる。「どうぞ」と雅秀が答えるとドアが開いてメイドのような黒いドレスにエプロンをつけた女性がひとり立っていた。
「どうしても首から上が不自然でな」雅秀がそう言うと彼女は光長の全身をジロジロ見つめた。
光長はすごく恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。
「これだけ長さがあれば何とかなりますね」彼女は部屋のドレッサーの前まで連れて行くとそのチェストに座らせた。
鏡の前で改めて自分の格好を見せられて光長は驚いた。何という格好だろう。とても男には見えない。おまけに彼女は光長の髪をまとめてピンで避けると顔にクリームのようなものを塗り始めた。
「それじゃあよろしく頼むわ。俺は下でコーヒーでも飲んでくる」
雅秀はそう言って部屋を出て行った。彼女は淡々と作業を続けている。
光長は何か気の利いたことでも尋ねてみようかと思いながら口を開こうとすると
「あ、今は顔を動かさないでください。バックしますから。じっとしていてくださいね」
と言われて何も言えなくなってしまった。
しばらく彼女に顔を弄られてから、今度は髪の毛を弄り始める。
横を向いての作業で鏡の中の自分の姿は見えない。色々なもので髪の毛を引っ張られて少し痛い。女性はこんなに窮屈な服を着て顔にこんなものをつけてから髪も痛い思いをするなんて本当に気の毒だと思った。それから自分は男で良かったと思う。
「あとはこれでできました」彼女が最後にキラキラしたピンを光長の髪に挿すと鏡の中を見て驚いた。
「これは誰だ?」
「あなたしかおりませんよ。本当におきれいですね」
彼女は鏡の中を見てうっとりと微笑んだ。
雅秀にこんな趣味があったとは・・・
<「弦月」湖畔にて7へ続く>
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