湖に浮かぶ水鳥がバタバタと羽ばたいて飛び立っていった。
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[0回]
水面に輪が広がってからすぐに静かな湖に戻る。
雅秀は光長の体を抱きかかえるようにしてソファーに座っていた。あれからしっかり雅秀にこの場で泣かされた光長は服を着てぼんやりと湖を眺めていた。
最初はいつ店の人が入ってくるかと思いながら雅秀を拒んでいたのに、次第にそんなことは忘れていた。だが、不思議とあれから黒服の男は入ってこなかった。雅秀の事だからその辺の用意も周到だったに違いない。わざとハラハラさせてそれを楽しむのは雅秀らしい。
光長の乱れた髪を雅秀が撫でながらもう一度唇を塞がれた。
何だろう?この感じは・・・やはりずっと昔からこんな風にしていたような心地よさがある。
雅秀の片手はまだ光長の腰に回されていて時折悪戯を仕掛けてくる。
注文をしてから一時間は過ぎているのに一向に料理が運ばれてくる気配がない。
「最初からわざと時間を告げてたんだろ」光長は雅秀の顔を睨む。
「当然だろ、あと一時間は来ないぞ」と光長の背中に回した手を動かした。
それも本当かどうか・・・そのつもりでいたらいきなり店の男が入ってくるなんていうこともあり得そうだ。光長は笑いながら湖を眺めていた。
「昔この湖には人魚がいたらしい」
遠くを見つめた雅秀の言葉に光長はこの間の話を思い出した。
人魚の血を飲むと不老不死になる。
「そういえばこの間の話の続きを聞かせてくれないか?」
光長は雅秀のことをもっと知りたいと思った。それから自分自身についても。
雅秀は湖を見つめてしばらく黙り込んでいた。
それから光長を振り返るとその前髪を無造作にかき上げた。
「別にあれ以上はないんだが、人魚の血だと言われて半信半疑だった俺はそれを酒に入れた。そしてお前と友になら永遠に生きてみても悪くはないと思ったんだ。喉乾かないか?何か運ばせよう」
雅秀はベルを鳴らしてワインを注文した。少し前には車の運転があると言っていたのに、もう帰るつもりはなさそうだ。
「その酒をお前と一緒に満月の夜に飲んだ」
「ちょっと待て、じゃあどうして俺は不老不死じゃないんだ?」
光長が慌てて雅秀の言葉を遮った。すると雅秀はクスッと子供っぽい笑みを浮かべた。
「ああ、どうやら効き方には個人差があったらしいな。俺も飲んでから意識が無くなった。お前は俺が死んだものと思ったらしい。次に目が覚めたときはご丁寧に棺桶に入れられ土の中だったよ」
光長は以前見た満月の夢を思い出した。武士のような着物をきた雅秀と自分は濡れ縁で酒を酌み交わしていた。その時突然雅秀が意識を失って、呼吸音が聞こえなかった。悲しくて泣き崩れた夢だった。あれは夢ではなくて現実のことだというのだろうか?
不思議そうに雅秀の切れ長の鋭い瞳を覗き込むと雅秀はそれさえも悟ったように頷いた。
「土から這い出した俺は、お前を捜した。ところがあれから十年ほど経っていたらしく、行き交う人の姿さえ変わっていた」
それを聞いた光長は雅秀の手に自らの手を重ねた。雅秀は一瞬驚いたように湖を見たまま瞳を見開くが、すぐに下を向いてクスッと笑った。
「お前はどこにもいなかった。ようやく探し当てた場所で聞かされたことは、お前がこの世にはもういないという悲しい事実だった。何のために不死身になったのかわからなかった。最初はもしかしたらお前も俺のように眠っているだけなのではないかと思って墓も掘ってみた。だかお前は目覚める気配もなかった。相変わらずきれいな顔のまま・・・・」
雅秀の手が僅かに震えている。もしかしたら泣いているのではないかと思って光長は立ち上がるとテーブルまで歩いていき、店の男が置いていったワインボトルを手にとってグラスに注いだ。赤いワインが日の光に透けてキラキラと輝いている。それを2つ手に持って一方を雅秀の手に持たせた。雅秀は信じられないようでも見るようにグラスの中のワインを見てから口に運んだ。それを見ていた光長も同じようにワインを口にする。芳醇なブドウの香りが鼻に抜けて甘酸っぱい新鮮な味がした。
<「弦月」湖畔にて4>
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読了、追っつかれ様でした。
web拍手をありがとうございます。
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