ふざけて雅秀がグラスを高く上げて日にすかした。
「そうなのか?」光長も同じように高く上げた。
「ああ、お前を待っている時間は長かった。どうしてお前は生きてくれなかったんだろうな。俺の愛情の注ぎ方が足りなかったんだと思ったよ」
光長はハッとした。始めて雅秀に会った日のことを思い出す。
「最初に電車でお前を見つけて信じられなかった。お前かどうか知るために俺はお前に突っ込んでみた。それで確信したんだ。間違いなくお前だと」
「そんな乱暴な方法でなくても・・・もっと色々とあっただろ。大体それだけじゃ終わらない酷い仕打ちの数々はどう説明する!」
光長は少しだけ怒っていた。雅秀はなだめるように片手で光長の頭を撫でていた。
「200年ぶりだった。お前を待っていたのは・・・想像がつくか?その間お前の体をどんなに思い描いていたことか・・・だから全部した。まだ足りないぞ。200年は長いからな」
そこに料理の皿を手にした黒服の男が入ってきた。
2人はどちらからともなくテーブルにある椅子に座った。
黒服の男は2人が座るのを黙って見届けてから、テー部の上にメニュー名を伝えながら丁寧に皿を置いた。
前菜は真っ白い皿の上にリーフレタスやらパフリカなど鮮やかな野菜の上にスモークサーモンとキャビアが飾られてソースで描かれている。
まるで絵でも見ているように鮮やかな盛りつけだった。
心が和む食事とはこういった静かな場所で好きな人とこういう料理をゆっくりいただくことを言うのだろう。光長はテーブルの角をはさんで隣に座っている雅秀を盗み見た。
雅秀は早速フォークを手にすると料理を口に運んだ。2口くらいで無くなっている。
そんな行動のひとつひとつが男らしいと光長は思った。
「メインの子牛のフィレソテーいでございます」
続けざまに運ばれてくる料理は作り置いたのではなくその場で作られているのだろう。どれも柔らかく温かいものばかりだった。
2人は次々に皿をきれいにしていった。
やがて最後のデザートとコーヒーが運ばれてきて雅秀は黒服の男に何か伝えていた。
「今夜はここに泊まることにした」
ここは宿泊施設も備えているのだと知って光長は納得した。
どうりで立派な建物だった。入口から入ってここにたどり着く前に絨毯を敷きつめた大きな階段があった。そこを上がるとフロントがあったのかもしれない。
「ここは昔貴族が西洋の建築を真似して建てた本当の城だ。部屋が30あるからそのうちの20室だけ宿泊できるようになっている。だがオープンで誰でも泊まれる訳じゃなくて、レストランの常連客のみに告知しているらしい」
雅秀は光長の疑問に気づいてそう言った。
「それじゃあ続きは部屋でゆっくり話すことにするぜ」
コーヒーを飲み終わると雅秀は光長の手を取った。何だかこんな風にされるのは初めてですごく照れくさい。光長は頬を赤く染めた。
<「弦月」湖畔にて5へ続く>
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